第70話 お湯の温もりと人肌

「私が……龍夜さんの膝の上に座りたいからです……!」

「……え?」


 柚梪の言葉を聞いた時、またしても俺はぽかーんとした顔になる。

 本当に、色々な事が起きすぎて、さすがに理解が追いつかなくなってきた。


 お風呂に入る……お湯に浸かる……髪と体を洗おうと立ち上がり、柚梪が現れる……バスタオル1枚を巻いた柚梪が入って来て……理性が破壊されるような柔らかい感触……俺の膝の上で、お湯に浸かりたい……


 おいおい、この数十分で色々起きすぎじゃねぇか?


 俺は、柚梪の顔を見ながら、目をパチパチとさせて、頭の中で理解を追いつかせようとしていた。


「……っ、龍夜さん……? 何をしているんですか? 早く、入ってください」

「……えっ? あぁ……」


 柚梪の声に、俺は意識が戻ってくる。


 そのまま、柚梪の言われた通りに、湯船へと入りお湯に体を浸ける。


 足を伸ばしながら、湯船に背もたれをすると、次に柚梪が湯船に入ってくる。

 出来るだけ足を上げず、ゆっくりとお湯に浸かると、俺の太もも辺りに柚梪が座り、俺の体に背中を押し当て、背もたれをする。


 状況で言うと、俺の太もも辺りに柚梪のバスタオル越しのお尻があり、柚梪の左肩の上に、俺の顔がある感じ。


 後ろで1本に纏めた髪、いわゆるポニーテールだ。髪が俺の顔に当たらないように、柚梪の肩元に顔を寄せている。


 以前にも、俺が電子小説を読んでいる最中にも、柚梪が甘えてきた時があったな。

 その時も、だいぶ密着していたが、今回に関してはバスタオル1枚越しだ。


 柚梪が体に巻くバスタオルを取り除けば、お互いの肌が触れ合うのだ。


 それに、バスタオル姿と言うのは、水着と同じくらいの破壊力がある。


「……っ///」


 俺の顔は、柚梪の左肩の上にあると言った。そこから、ほんの少し右斜め下に視線を送れば、そこには至高の光景が目の前に現れる。


 それは……想像の通り、豊満な胸である。


 水着の時よりも間近であり、存分に色気を出したそれは、まさに魅惑と言えるだろう。


 薄いピンクの艶が入ったその胸は、少し柚梪が身動きをするたびに、ほのかにプルンっと揺れ、ついつい目が吸い寄せられてしまう。


「龍夜さん……」


 すると、突然柚梪が俺の名前を呼んだ。


 胸に視線が行っていたことが気づかれたのか、焦った俺は瞬時に視線を明後日の方向へと向けて、柚梪に応答する。


「な、なんだ……? ゆ……柚梪……」


 少し震え気味の返事……どうなるのだろうか……?


「抱きしめてください……」

「……えっ?」


 しかし、返ってきた言葉は、全く予測していなかったものだった。


「だから……このまま抱きしめてくださいって、言ってるんですっ」

「あ、あぁ……(バレてない……みたい?)」


 正直、このまま抱きしめるのは、かなり恥ずかしいが……少し怒り気味みたいだし、素直に従っておこう……


 そして、俺は柚梪の両方の腰元から両手を通し、柚梪のお腹の上で、両手を絡ませロックする。


「これでいい……?」

「……ダメです」

「え? なにが……ダメなんだ……?」

「もっと、強く抱きしめてください」


 しかし、柚梪は満足していないようだ。


 『もっと強く』と要求されたので、俺は絡ませた手をほどいて、両腕をクロスさせた状態で、バスタオル越しに柚梪の腰元に触れ、グッと抱き寄せた。


「こんな……感じ……?」

「……はい。これで、いいです」


 お湯による温もりと、柚梪の体による温もりの両方を感じながら、数分間無言で抱きしめ続けた。柚梪のちょっとした身動きで揺れる、柔らかそうな胸に視線を奪われる。


「あの……龍夜さん……?」

「ふぇっ!?」


 またもや突然名前を呼ばれ、つい声が裏がえってしまう俺。


「ど、どうしだ……? 柚梪……。 もう上がるか……?」

「いえ……そう言う事ではなくて……その、視線……」

「……っ!?」


 しまった……! 今度こそバレでしまった……!


 胸ばっかり見る変態だと思われたくないっ! どうにかして誤魔化せないか……!


「ん……んん~? 視線がどうしたんだぁ…~?」

「とぼけないでください……さっきから、胸ばっかり見ていること、気づいてるんですからね」

「す……すみません……(あ、俺の人生終わった……)」

「もうっ、龍夜さん……えっちなんですから……」


 柚梪が両手で胸を隠すような仕草をするが、そうせいで、持ち上げられた柚梪の胸がさらに凝縮され、より胸による色気が倍増してしまう。


「龍夜さん……そんなに、胸に興味があるなんて知りませんでした……っ?!(何か今……お尻らへんに、固い何かが当たったような……?)」

「……! (しまった……! 当たってしまった……!?)」


 俺の大切な何かが、柚梪の太もも付近の肌に、ほんの僅かだが触れてしまったのだ。


「あの……龍夜さん、今……何か当たっ……」

「あぁ~! 俺、ちょっとのぼせちゃったかも……! 早く上がって、体を冷やさないと……!」

「えっ……? あの、龍夜さ……きゃっ!?」


 俺はすぐに湯船から脱出し、逃げるかのようにお風呂場を出て行った。


 取り残された柚梪は……ほんの少しだけ顔を赤く染める。


「……、なんだったんだろう……(何が当たったのか分からないけど……なぜかすごく……ドキドキする……)」


 そうして柚梪は、胸に手を当てると、徐々に高鳴る鼓動を落ち着かせようと必死になった。

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