第62話 誰にも知られない告白

 夜21時頃のこと。


 明日は彩音の提案により、海に行くとのことだ。

 その為、俺はリュックサックに水着やタオル、念のための予備洋服、財布など、必要そうな物を詰め込んでいた。


「よし……とりあえず、明日は9時出発の……お昼15時に解散でいいな?」

「うん。大丈夫だよー」


 俺はソファーに座って、チョコレートのアイスを食べる彩音に、そう問いかけた。


 彩音に関しては、海で遊んだ後実家の方に帰る。その為、実際はもう少し早く解散になるかもしれんな。


「んで、お前は帰る支度は済ませたのか? 忘れ物とかあっても、届けに行かねぇぞ?」

「大丈夫だよ。すでに6回くらいは確認してるし。なんなら今から7回目の確認しとく?」

「好きにすれば?」

「もうっ、冷たいなぁ」


 まあ、こう見えて彩音はしっかり者だからな。心配はしなくても大丈夫だろ。


 こうして、俺も準備が完了した。

 冷蔵庫に向かい、俺もアイスを食べようと、冷蔵庫から彩音の食べているチョコレートアイスを手に取る。


 すると、廊下から柚梪がリビングへとやって来る。


「あっ、柚梪ちゃん! どうしたの?」

「え? いえ、明日の準備が出来て、リビングに龍夜さんと彩音ちゃんが居るみたいだったので、なんとなく来ただけですよ」

「ん? なんだ、柚梪も居たのか。柚梪もアイス食べるか?」

「あっ、じゃあ……頂きます」


 俺は、自分用と柚梪用にチョコレートアイスを手に持って、片方を柚梪に渡と、彩音の座るソファーへと腰を下ろす。


 その後、ついてきた柚梪が、俺の体にピタッとくっつくように隣へ座ってくる。


「……。柚梪、ちょっと近くない?」

「多分気のせいですよ」

「なんか覚えのある流れ……!」


 柚梪は普通にアイスの袋を開けて、少しずつアイスを食べていく。


「2人とも距離が近いねぇ、お兄ちゃんも柚梪ちゃんみたいな美人さんに、自分から寄り添ってもらえて……さぞ嬉しいことでしょう」

「なんだ? その言い方……まあ、柚梪の方から寄り添ってもらえるのは嬉しいけどさ」

「お兄ちゃんと柚梪ちゃん……お似合いじゃん!」

「……っ!」


 彩音の言葉に柚梪が反応し、柚梪は俺に気付かれないよう、そっと俺の顔を上目遣いで見てくる。


「おいおい、やめろよ。俺なんかが柚梪に似合うわけ……」

「……!」

「あぁ!? 俺のアイス食いやがった!?」

「おいひいれふ」

「いや、感想は聞いてねぇよ」


 柚梪は聞きたかった答えを聞けなかったことに、少し拗ねたのか、俺のアイスを1口食べてきやがった。

 それどころか、より体を寄せてくるような……?


 だが、俺はここであることに気がついた。それは、柚梪のパジャマだ。


 灰色の薄着にねずみ色の短パン。俺、柚梪にそんなパジャマ……と言うのか分からないけど、買った覚えがない。


「なあ、柚梪。その服どうしたんだ?」

「あぁ、それは私が買ってあげたんだー。柚梪ちゃんのパジャマ見せてもらったことがあったんだけど、なんか……全然センスなくてさ」

「うっ……心に穴が……」

「だから、私が安物だけどマシな服をプレゼントしたの」

「そうか……彩音から買って貰ったのか」


 確かに、だいぶ前に買ってあげたパジャマは、全くと言っていいほど似合わなかった。

 それでも、柚梪は使ってくれてたのだが、今の方がだいぶマシである。


 胸元がしっかりと膨らんでいることが分かり、太ももから足先まで、綺麗な艶の入った肌が露出されている。


 ついつい目が吸い寄せられてしまうが、あまりジロジロ見て気持ち悪るがられるのは勘弁だ。


 こうして、3人で並んでアイスを食べてた。




 夜22時くらいに、皆で歯磨きを済ませ、各自就寝場所へと移動。

 本来ならば23時に就寝なのだが、俺はバイトで彩音はいつも以上に歩いて疲れたとのことで、いつもより早く寝ることになった。


「じゃあ、お兄ちゃんと柚梪ちゃん……おやすみー」

「あぁ、ゆっくり休めよ」

「おやすみなさい」


 先に2階へと登っていく彩音にそう言うと、俺もリビングへと向かおうとする。


「じゃあ、おやすみ。柚梪」

「……」


 しかし、柚梪はリビングへ向かおうとする俺の袖を優しくつまんで、俺を止める。


「……? どうしたんだ? 柚梪」

「……一緒に」

「ん? なんて……?」

「だから……一緒に、寝ませんか……?」

「あぁ……柚梪がいいなら、別に構わないが」


 それは、柚梪から添い寝のお誘いだった。


 もちろん俺は承諾した。しかし、立派に成長した柚梪と、2人きりで寝るのは……始めてなんじゃないか……?


 無言で2階へと俺の袖を引っ張る柚梪に、俺は『待った』をかける。


「部屋の電気だけ消して来ていい?」

「あっ……はい、忘れてました」


 そして、家中の電気を消し終わると、俺は柚梪と一緒に自室へと向かう。


 壁側に柚梪、外側に俺の並びでベットに寝っ転がると、すぐに柚梪が俺の方に体を向けてくる。


「こうして2人で寝るの……久しぶりですね」

「確かに……前は彩音も居たからな」

「……」

「……」


 ヤバい……気まず過ぎる……


 会話が続かない上、お互い向き合っている状態。さらには、俺も柚梪も目を開けている。


 窓から差し込む月明かりに照らされながら、数分間無言タイムを過ごす。


「あの……龍夜さん……」

「な、なに……?」

「その……もう少し、近寄っても……いいですか?」

「えっ? い、いいけど……」


 すると、柚梪は完全に体が密着するほど俺の体へと近寄ってくる。

 ピタッとくっついた俺と柚梪の体。俺の胸元から、柚梪の押し付けられる柔らかい胸の感触が伝わってきて、眠たくなるようないい匂いが柚梪から漂ってくる。


(なんだろう……この匂い。すごくいい匂いで……眠たくなって……)


 俺は、柚梪の胸の柔らかい感触より、花のようないい香りに、俺はうとうとし始めてしまう。


 俺は無意識に右手を柚梪の背中へ通す。


「……っ。(龍夜さんが……自分から抱き寄せて……)」


 柚梪はほんのりと顔を赤くすると、俺の顔をゆっくりと見上げる。


「……」

「あれ……? 龍夜さん、寝てる……?」


 柚梪は俺が寝ていることを確認すると、俺の胸元の服を優しく握ると、そっと耳を近づける。


 俺の胸に耳を当てると柚梪は、ドクン……ドクンと鼓動を鳴らす俺の心臓の音を聞く……


「(龍夜さんの鼓動……温もり……匂い……安心する。心地が良くて落ち着く……)」


 すると、柚梪は俺の寝顔を見ながら、小さく問いかけてくる。


「龍夜さん……起きてますか……?」

「……」

「寝て……ますか……?」

「……」


 俺に問いかけながら、軽く肩を叩いたりするが、俺はとっくに深い眠りへとついていた。

 俺が完全に寝ていることを確信すると、柚梪はほのかに赤くした顔を、さらに少し赤く染めると、小さく呟いた……


「龍夜さん……好き……です……」


 もちろん、聞き取れないほどの小さな声で、俺に対して好意を示したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る