第61話 俺の思う本当の気持ち……?

 その日の夜、バイトが終わった俺は、いつも通り家へと帰宅し、夕食を取る。


「ただいま~」

「あっ、お兄ちゃんおかえり。柚梪ちゃん、夜ご飯食べよー」

「はい、今行きます」


 今日はハンバーガー。ポテトにナゲット、飲み物まで彩音の奢りだそうだ。


 ダイニングテーブルに広げられた物を、3人でつまみながらハンバーガーを食べる。

 ちなみに、俺のはチーズバーガーだった。


 そして俺は、今日のお昼頃に電話で話した内容を、彩音と柚梪に打ち明ける。


「2人とも。俺さ、学校辞めることになった」

「……(来たか……)」

「……っ]


 両手でハンバーガーを持って、口を開けていた彩音が、口元かろハンバーガーを離し、俺に聞き返してくる。


「へぇ……どうしたの? 急に学校を辞めるなんて」

「それがな……これからも柚梪と居るには、ちょっとお金が厳しくなってくるんだ。だから、学校を辞めてその分バイトしようと思うんだ」


 そう、柚梪をこれからしばらく家に置いておくには、資金面で問題が出てくるんだ。

 学校の費用を払いながら、食事・電気・水・ガスと言った、別の費用も払っていくと、間違いなくバイトで稼いでいるお金だけじゃ、限界が来てしまう。


「ふーん……まあ、良い判断じゃない?」

「(彩音ちゃん……?)」

「まあ、そう言うことだ。確か、彩音は明日帰るんだってか?」

「そうそう。しばらくはお兄ちゃんの家には来れそうにないし……なんならここで住みたかったなぁ」

「それは勘弁してくれ」


 一方柚梪は、じっとハンバーガーを見つめたまま、下を向いて動かない。


 それを見た彩音が、少し攻めてくる。


「あーあ、私が男だったら……柚梪ちゃんにすぐ告白するのになぁ~」

「……!」

「おいおい、何言ってんだ? お前」


 突然彩音が意味の分からないことを言い出し、俺は少し引きぎみだった。


「だって柚梪ちゃん超可愛いし、美人さんじゃん? 柚梪ちゃんと結婚出来たら、どれくらい幸せなのかなぁ~って」

「結婚……か」

「……」


 俺の様子を伺う柚梪は、ゴクリと唾液を飲み込む……


「お兄ちゃんは柚梪ちゃんと結婚したいって思う? 思ってるんでしょ?」

「いやいや……そりゃ、柚梪みたいな綺麗な人と結婚出来たらなぁ、とは思った事あるけど……俺みたいなやつが柚梪には合わねぇって」

「……っ」

「それに、柚梪にはもっといい人がきっと居るはずだからな。俺は……柚梪が楽しく人生を歩んでくれればそれでいいさ」


 綺麗ごとを言ってるみたいに思うが、実際俺みたいな極々普通の一般人が、元お嬢様である柚梪に合うはずがない。

 あの時言った、『柚梪は俺が幸せにしてみせる』とは、他から聞いたら結婚とかそっち系に思われるかもしれない。

 でも、俺は柚梪と結婚出来ると思ったことは一度もない。


 例えば、大好きなアイドルやアニメキャラクターが居るとしよう。

 他にもたくさんそのアイドルが好きな人が居る中、ピンポイントで自分と結婚出来るか?

 現実には存在しないアニメキャラクターと、実際に結婚して夫婦になれるか?

 当然あるわけない。


 それらと同じだ。

 柚梪はアイドルやモデルさんと同じくらいの美人さん。関わりは俺が一番深くても、実際に結婚……ましてや、お付き合い出来るとは思うはずがない。


 柚梪にはきっと……俺以上に適している男性が、この世の中には居るはず……


「俺は……柚梪が楽しく人生を歩んでくれれば……それで、いいから」


 柚梪が人生を楽しんでくれればいい。いいはずなのに……なぜだろうか。まるで……心臓が押し潰されているように、胸が痛む……


「……。私、お風呂入って来ますね」

「……えっ? あぁ、いってらっしゃい……」


 半分も食べていないハンバーガーを紙に包んで、テーブルに置いた柚梪は、早歩きで脱衣場へと向かっていく。


「あはは……何か変な空気になっちゃったね。ごめん」

「いや、彩音が謝ることじゃねぇよ。話を暗くしたの……俺だし」

「とりあえず、話を変えようよ! 明日私帰るでしょ? せっかくの夏なんだからさ、海行こうよ」

「え? 突然だな……まあ、明日はバイトも休みだし、水着もあるから俺は構わんけど……柚梪はどうすんだ?」

「大丈夫。柚梪ちゃんの水着は買ってあるんだぁ! きっとお兄ちゃんはいい光景が見れるよ!」

「その言い方……ちょっとあれだな」


 海か……ここ数年間、全く行ってなかったな。夏休みシーズンも、あと1週間ちょいで終わるし、せっかく彩音も居ることだ。たまには、羽を伸ばすのもいいだろう。


「お兄ちゃんに可愛い妹の新の水着姿をお披露目しよう!」

「はいはい」

「むぅ~っ、そっけないなぁ。可愛い過ぎて私を襲っても知らないからねっ!」

「襲わねぇって」

 

 俺と彩音は、ちょっとした言葉のじゃれあいをしている中、一方柚梪は……




 脱衣場で服と下着を脱いで、シャワーを浴びている最中だった。


 しかし、頭からシャワーを浴び続けるも、柚梪は下を向きながら、拳をグッと握りしめて動かなかった。


「……龍夜さんの……分からずや」


 柚梪は小さな声で、そう呟いた。

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