第56話 伝えたいこの気持ち

 朝7時くらいのこと。


 ソファーで寝ていた俺は、ゆっくりと覚醒し始めていた。


「……うん?」


 目を擦りながら、細く開いたその目で、カーテンが掛かった窓を見る。

 カーテンからはみ出る太陽の光を見て、朝なのだと確信がつくと、顔を洗いに行こうと体を起こす。

 そしたら、すぐそばで腕を枕にしながら、無邪気に眠る柚梪の姿が。


 あれほど俺を避けていたのに、昨日は一緒に添い寝していたのか……?


 ともあれ、少なくとも嫌われた訳ではなさそうだ。それが分かっただけでも、だいぶ気が楽になる。


 しかし……この時間だったら、すでに彩音が起きて朝食を作ってくれているはずなんだが、珍しく起きてないな。


 柚梪を起こさないよう、慎重にソファーから立ち上がると、洗面台へと向かう俺。


「ふぁ~あ……寝落ちしてた……ん? 置き手紙?」


 リビングを離れようとした時、ダイニングテーブルの上にある1つの紙を発見。

 それは、彩音からによる置き手紙だった。


『お兄ちゃんへ。なんか昨日からスマホの充電器が調子悪いんだ~。だから、ちょっと朝早いけど、お出かけしてくるね。ついでに猫ちゃんでも眺めてこようかな。お昼までには帰るから、安心してね。それと、朝ごはん作ってラップしてるから、温めて食べてね』


 と言う内容だった。


「こんな朝っぱしから行かなくても……」


 正直、お昼からでも良かったと思うが、どうやらすでに行ってしまっているようだ。

 俺は、ため息を吐くと、置き手紙をテーブルに置いて、洗面台へと向かうのであった。


 


 顔を洗って、ついでに歯磨きを終えたあと、キッチンへと向かうと、手紙に書いてあった通り、2人分の朝食がラップに包まれて置いてあった。


 ウィンナー・ハム・目玉焼き・トウモロコシ・千切りキャベツが乗ったお皿。炊飯器には、お米も炊かれていた。


「柚梪。朝だよ」

「……んん……?」


 温めればすぐに食べられるため、柚梪を起こして、柚梪が歯磨き等をしてる間に、彩音の作ってくれた朝食を温めるとしよう。


 ゆっくりと目を覚ます柚梪は、寝ぼけているのか、俺の顔を見ても驚いたり、避けようとはしなかった。


「朝食の準備するから、顔を洗って、歯磨きしておいで」

「……分かり、ました」


 立ち上がった柚梪は、壁に手を添えながら、ゆっくりと洗面台へと向かって行った。


 柚梪が行った事を確認した俺は、朝食を温めて、茶碗に白米をついだりした。

 数分後、歯を磨き、髪を整えて戻って来た柚梪と一緒に、朝食を食べ始める。


「あの、彩音ちゃんは……居ないんですか?」

「あぁ。なんか、買い物に行ったみたいだ。こんな朝早くから行かなくてもいいのにな」

「そう……ですか……」


 俺は黙々とご飯を食べる中、柚梪は手を全く動かさずにいた。


『好きって事を口に出さなくても、しっかりとアピールしていれば、いずれは気づいてくれるよ』


「……」


 柚梪の頭によぎったのは、昨日彩音が言った言葉の一部だった。


 ほのかに顔を赤らめると、俺の顔を見て名前を呼んだ。


「あの……龍夜さんっ」

「ん? なんだ?」

「えっと……その……私っ」

「……?」


 柚梪は言葉が途切れながらも、何かを俺に伝えようとしている。

 さらに、柚梪は顔をどんどん赤らめながら、その続きを言っていく……


「私……た、たつ……龍夜さんが……す、すきで……」

「……ん? すまん、声が小さくて、よく聞き取れなかった。もう一回頼む」

「ふぇっ!? あっ、いえ……何でもありません……」

「……?」


 柚梪はとっさに俺から別の方向に視線を向ける。


 柚梪が俺に、何を言おうとしたのか気になるが、どうやら落ち着かないようだし、また今度聞いてみるとしよう。


 俺は何も無かったかのように、再びご飯を食べ始めた。


 一方柚梪は、顔を真っ赤に染めて、両手で胸を抑えていた。ドクンドクンと心臓の鼓動が早くなる。


(ダメ……恥ずかしくて……上手く言えない……)


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