第3章 そして実る恋心
第54話 様子がおかしい柚梪
あれから数時間後、警察から柚梪が救出され、俺の家へと連れて来てくれた。
しっかりと柚梪の引き取り手続きも、柏木さんに電話で教えておもらいながら、無事に完了した。
彩音は、俺と家に帰って来た後、すぐにソファーで寝てしまった。
おそらく、数日間夜遅くまで作業していて、まともに睡眠をとれていないのだろう。
彩音が居てくれて本当に良かった。俺は心の底から感謝している。
間宮寺鷹行の管理していた金庫のお金は、海外へ行っていたお姉さんが引き取ったそうだ。
お姉さんが海外で何をしていたのかは知らないが、くれぐれもお金があるからって、無駄に使って欲しくないものだ。
柚梪を正式に引き取ってから数日、何事もなく平和に暮らしていたのだが、最近柚梪の様子がおかしい。
「柚梪、今日も俺がご飯作るんだけど、何か食べ……」
「……っ、私は……何でもいいので……」
「あっ……柚梪……?」
俺が柚梪に声を掛けたり、近づこうとすると、距離を取られてしまうのだ。
ソファーでスマホを弄ってたり、小説を読んでいると、必ず俺に寄り添いながら、覗き見をしてきたり、雑誌を見てたりするのに、俺の部屋から出て来なかったりしている。
「……ごちそうさまでした」
「あぁ、食べるの早いな……って、もう行っちまった……う~ん……」
「お兄ちゃん。柚梪ちゃんに何かしたの?」
「いや、それが何も記憶に無いんだ。無意識に柚梪の嫌がる事でもしたのか……?」
夕飯を取り終えると、柚梪は逃げるかのように2階へと登って行った。
柚梪が帰って来た日は、いつも通り寄り添ってきたりしてたが、その翌日の夜くらいからこの様子だ。
今日で3日目なのだが……必死に脳を回転させても、柚梪から避けられている理由や原因が分からない。
(お兄ちゃんの様子からして、本当に心当たりが無いみたい。柚梪ちゃん……どうしたんだろう……)
結局俺は、今日も避けられ続けた。柚梪と会話した時間は、今日全体で1分もない。
柚梪に何か悪いことをしたのではないか?
柚梪の機嫌を戻すには、どうしたらいいのか?
その事で頭がいっぱいで、夜もまともに眠れない。おかげ様で、寝不足だよ。
「お兄ちゃん……あれ? お兄ちゃん?」
夜22時を回った頃、ソファーに座って頭を悩ませる俺は、寝不足だったせいで、気がつくと寝落ちしていた。
ダイニングテーブルでパソコンを弄っていた髪を下ろした彩音が、ソファーに寝っ転がった俺に歩み寄り、完全に熟睡している俺の顔を見る。
「……」
俺が寝ている事を確認した彩音は、ノートパソコンの電源を切って蓋を閉じる。
そしたら、ゆっくりとリビングを離れて、2階へ続く階段を登って行く……
コンコンコン……
2階段にある俺の部屋の扉をノックする彩音。
「……誰ですか?」
「私だよ。彩音。入るね」
ガチャっと音を立てて部屋に入ると、そこにはベットの上に座ってうずくまる柚梪の姿があった。
柚梪はどこが元気が無いようにも見える。
彩音はそっと柚梪の隣へ行って、ベットに腰を降ろす。
「あの……龍夜さんは……?」
「リビングで寝てるよ。柚梪ちゃんの事を考えて、あまり寝れてなかったみたいだよ」
「私の……事を……」
膝で自分の口元を隠す柚梪に、彩音は優しく問い掛ける。
「柚梪ちゃん。何かあったの? お兄ちゃん……柚梪ちゃんから避けられてる事に、ずっと頭を悩ませてるし」
「……」
黙り込む柚梪。よほど何かの理由があるのだろう。
もし、それが言えない理由とかなら、もちろん無理には聞かない。でも、教えてもらった方が改善しやすくはなる。
「……そんなに言えない理由なの?」
「……」
「そっか。言えない事なら、無理には聞かないでおくよ。もし、言っても良いってなった時に聞かせてくれれば」
「違うんです……変なんです……」
「変?」
すると、膝に口元を隠したまま、ほのかに顔を赤くする柚梪は、彩音の居る方向とは別の方向に視線を向けて、ゆっくりと話始める……
「分からないんです……龍夜さんに声を掛けられたり……見られたりすると……心臓の鼓動が止まらなくて、龍夜さんの事が……頭から離れなくて……っ」
だんだんと顔を赤くする柚梪。内容を聞いた彩音は、一瞬で理解した。
なぜ、柚梪が俺の事を避けるのかを……
「なるほどね。とうとう柚梪ちゃんに……実っちゃったか……」
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