第51話 始まりし裁判

 裁判当日の朝10時。時間通りに俺の裁判が開始された。正直、色々と物事が早すぎて、まだ理解が追いついてない部分もある。


 人数は俺を含む10人。裁判長含めた黒服の人が6人に、弁護士の柏木さん。警察の服装をした男性と俺。少し離れた位置に、ねずみ色の髪をした男性。


「それでは、これより如月龍夜の裁判を開始する」


 裁判長の重々しい声と共に、よく聞く木製のハンマーを軽く振り下ろした時の音が、2回なり響く。


 それと同時に、先に動きだしたのは警察の服装をする、1人の男性。


「裁判長。まずはこちらの映像をご覧ください。こちらの映像は、あるコンビニの監視カメラが捕らえた映像になります」


 流される映像には、確かに俺?が映っていた。明るさからして夜だろうか?普通に歩いてくるねずみ色の髪をした男性と……えっ!?柚梪!?


 今この目で見た……確かにはっきりと柚梪の姿が映っていた……!それに、急に俺らしき人物が刃物を突き出して、ねずみ色の髪をした男性の腕を刺す。その後、柚梪を連れ去っていくと言う映像だった。


 どうなっているんだ?そもそも俺がコンビニに寄ったのはだいぶ前だぞ?それに、あの時の柚梪は体も細かった。映像に映った柚梪は、間違いなく成長した後の柚梪だ。


「今見てもらった通り、音声こそは入ってませんが、しっかりと現場を捕らえています」

(ほう……思ったより完成度が高いですね。パッと見れば本物の映像にそっくりですが、人の動きが少しぎこちないですね)


 黙々と証言をしていく男性に、柏木さんは腕を組んでただ映像を見つめるだけ。何一つとして反論してくれない。


「待ってください! 確かに俺はバイト帰りにコンビニの前を通りますが、映像に映った女性は柚梪……じゃなくて、真夜さんですよね? 彼女は俺の家に居た上、彼女と1度コンビニに行った時はお昼でした……!」

「静粛に」

「……っ! 柏木さん! 何か言ってくださいよ! あなたは俺の弁護士なんでしょう!?」

「そうですね。私から言える事は、こちらの映像に映る人物は、少しぎこちなさを感じます。まるで、演技をしているかのように」

「何をデタラメ言っている? これは正真正銘監視カメラが捕らえた映像だ。如月龍夜本人も映っているだろう? まさか、偽物だとでも言うのか?」


 またもや腕を組んで、今度は警察の服装をした男性を見つめる。


 その後も、次々と証拠を提示する男性。


 その時に使用された刃物の実物。実際に刺された腕の傷の画像……。


 俺には全く覚えが無い証拠や映像を、柏木さんはじっと見つめるが、何も反論しない。それどころか、口すら開かないではないか……!


「柏木さん! 何か言ってください! なんで全く弁護してくれねぇんだ!」

「……」


(なんだ。いつも頼んでいる偽の弁護士が変わっていたから、少し焦ったが……たいしたことねぇじゃないか)


 クスクスと笑う警察の服装をした男性に対し、柏木さんは何かを考えいるのか、本当に口を開いてくれない。


「弁護人。これらの提示に関して、反論が無いと?」

「いえ。反論はたくさんありますよ。しかし、どこまで反論すれば良いのか」

「反論? あるならさっさと言ったらどうだ? これほどの提示にどう逆らうつもりだ?」

「本当なら、優秀な証人を用意しているのですが、まだ来てないようで。なにせ、口止めされていますから」

「口止め……?」





 その頃、柚梪視点では……


「なんで全く反論してくれないの……? このままじゃ、龍夜さんが……」


 私はモニターに映し出された裁判の映像を見ていました。


 あまりにも一方的な証言に、龍夜さんの立場はどんどん弱くなる一方じゃないですか。


 弁護士の人は何をやっているのですか……? 


 もうすでに30分以上が経過しようとしてます。未だに反論も何もしない弁護士の人を見て、私は失望してました。


「……! あの人は……」


 モニターの隅から、1人の女性が現れたのです。それを見た私は、目を見開いてモニターに映る女性を見ました。


 その女性とは……





 ダァンッッッ!!!


 突然部屋の扉が大きな音を立てて、ある人物が現れた。


「なっ、誰だ! 今は裁判中だぞ!」


 怒鳴り声をあげる警察の服装をした男性。しかし、部屋に入って来る人物は、俺がよく知っている人物だった。


「うっさいわね! 私は真実を提示に来たの! この愚民がっ!」

「全く、時間通りに来ると言ったのに、遅刻とは良くないですねぇ。彩音さん」

「仕方ないじゃないですか! バスと電車じゃ時間が掛かるんですぅ!」


 現れた人物は、紫髪の長いツインテールに紫寄りのピンクの瞳をした、俺の妹……如月彩音だった。


「裁判長。この方が私の用意した証人です。とても有益な情報を持っておりますので、是非同席のご許可を」

「何をバカな事をぉ! さっさとこの小娘を連れ出せ!」


 部屋の隅で彩音を見つめるねずみ色髪の男性に、彩音が目線を送る。


(この小娘……あの時気絶させた……)


「だいぶ好き勝手してくれたみたいねぇ! 存分に反撃させて貰うから、覚悟なさいっ! 間宮寺鷹行!」

「なっ!? 間宮寺鷹行……!? あいつが柚梪を捨てた……」


 俺は、ねずみ色髪の男性を間宮寺鷹行と言う彩音に驚く。そして彩音は、間宮寺鷹行に鋭い眼光を向ける。


「誰が無罪で、真の犯人が誰なのか。、如月彩音が証明してみせるわ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る