第52話 彩音の情報攻撃

 ホワイトハッカー……それは、サイバー攻撃(ネットワークを通しての不正アクセス)から、国や企業を守る人の事を示す。


「え? お前、ホワイトハッカーなの?」

「うんん。違うよ。ホワイトハッカー部門……言い変えればハッキング部門かな。ハッキングの知識を学んでるだけで、ホワイトハッカーの職業自体は興味ない」

「なんか、ハッキングを学ぶって、他から聞いたらヤバい事言ってるみたい」


 彩音は『何を言ってるの?』と言わんばかりの顔で答えてくるが、俺からしたら……ハッキングって言葉に、あまり良い印象を持ってない。


「とにかく、今はお兄ちゃんの無実を証明することが優先。面倒だから、ちゃちゃっと終わらせちゃおう」


 そう言うと、彩音はポケットからUSBを取り出し、柏木さんへと手渡す。


 USBを受け取った柏木さんは、持参したノートパソコンに装着。スクリーンと画面共有を行った。


 すると、スクリーンにある動画の画面を表示する。


「まずは、1本の動画と1つの録音を聞いてもらいます。ちなみに、私は言いたいことを全て言うまで、ここを離れませんので」

「なっ!? その動画は……!?」


 流される動画に、警察の服装をした男性が焦りを見せる。


「これは、お兄ちゃんが間宮寺鷹行の腕を刺し、間宮寺真夜さんを連れ去る所の映像を、加工して作っている最中の動画です」


 裁判長含めた6人の裁判官が動画を見る。動画を流しながら、ちゃくちゃくと話を進める彩音。


 ある程度動画が進むと、柏木さんに指で合図を出した後、別の画面へと切り替わる。


「そしてこれは、間宮寺鷹行と村上警察署長の通話です」

「何っ!? 通話だと!?」


 なるほど、あの警察の服装をした男性は、村上警察署長と言う人なのか……?


 柏木さんは容赦なく、彩音が聞いた通話の録音ボイスを流す。確かに村上警察署長って人の声と、おそらく間宮寺鷹行だろう人の声が、しっかりと録音されていた。


 しかし、彩音の攻撃はまだまだ止まりはしなかった。


「動画と録音の他にも、間宮寺鷹行がある部屋に女性を連れ込み、多大なる暴行を与えている所も見ました。しかし、あまりにも酷すぎたため、ここでは流さないでおきます。必要なら、後で動画をお渡しします」


 動画に録音を見せられた、及び見られたことで、村上警察署長って人はすっかり顔色が青くなっていたが、間宮寺鷹行は表情を一切変えることはなかった。


「ふん。所詮は身内の関係だ。ハッキングの才能があるのなら、改造しようと思えばいくらでも出来るはずだが?」

「その点に関しては、問題ありませんよ。私が保証します」


 間宮寺鷹行が彩音の持ってきた情報は、作り物だと訴えたのだろうが、その言葉を柏木さんが止める。


「ほう? それはいかなる理由で?」

「理由も何も、彩音さんにハッキングを教えているのは……私ですからね。こう見えて、15年以上はホワイトハッカーとして務めて来ましたから」


 なんと、柏木さんは彩音の教え子だったと言うのか!?

 しかも、15年以上って……結構ベテランな人じゃね?


「今はホワイトハッカーとして務めてませんが、変わりに教師として、働かせてもらっています。教師として、彼女の才能と技術はプロ並みですが、加工等は一切してません。なんなら、動画加工を見破るプロにでも頼んで、見てもらっても構いませんよ?」


 すると、柏木さんは1枚のプリントを取り出し、間宮寺鷹行に見せつける。


「それは何かね?」

「村上警察署長が提示した動画を、動画加工を見破るプロに見てもらった証ですよ。しっかりしたと加工動画だと言う証明書です」


 証明書と大きく書かれたプリントには、細かい文字の文章に、サイン、印鑑等が載せられていた。


 すると、彩音はポケットから、さらに別の小さな機械を取り出すと、何かのスイッチを押した。


「もしもーし、柚梪ちゃん聞こえるー?」

「……え? 柚梪に話かけてるのか?」


 そんなバカな……柚梪はこの場所に居ないぞ。いったい何をしているんだ?


「柚梪ちゃん。私の声が聞こえてたら、機械の横にあるスイッチを押してくれる?」


「あ……あー、聞こえるんですか? これ……」

「うん! 聞こえてるよ!」


 少しすると、柏木さんのパソコンから、柚梪の声が少し聞こえた。柏木さんがスピーカーモードをONにすると、柚梪の声が部屋全体に響き渡る。


「えっ? どうやって柚梪と話してるんだ?」

「お兄ちゃんが連れて行かれた後、柚梪ちゃんに同じ機械を持たせてたんだ。だから、その機械を通して会話してる」

「その声……まさか本当に真夜なのか?」

「……っ、お父様」


 彩音は、手に持つ小さな機械を口に近づけたまま、柚梪に話しかける。


「柚梪ちゃん。間宮寺鷹行さんはお父さんなの?」

「え? 元々はですけど……?」

「真夜、答えて方には気をつけろよ?」

「おっさんは黙ってて。柚梪ちゃん、言える所までで良いから、過去の事を少しだけ話てもらえる?」

「……。分かりました」


 そして柚梪は、少し過去の事を話始める……

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