第45話 予想外の人達

 朝10時頃、朝食を終え、歯磨きや着替えを済ませた俺は、お昼15時からのバイトまで、ゆっくりと家で過ごしていた。


 ソファーに座って電子小説を読む俺に、俺の右肩に頭を乗せて、スマホの画面を覗いてくる柚梪。ここら辺はいつも通りなのだが、ダイニングテーブルにノートパソコンを広げて、肘をつきながら画面を眺める彩音。


 しかし、彩音は眉間に眉を寄せる。


 チラッとパソコンの画面から窓を見ると、未だに停車する黒い車を見つめる。


(もう2時間近く経過するのに、あの車……まだ停まってる……)


 もしかしたら、ただのトラブルで停まってだけなのかもしれないが、彩音は長い間停車する黒い車が気になって仕方ないようだ。


(まあ、何か事故でもあったのかもだけど、近づくのはやめとこ)


 彩音は再びパソコンの画面に目を向ける。


 それから約1時間。特に何事もなくお昼へと近づいていた。


「お兄ちゃん、柚梪ちゃん。お昼何か食べたい物ある?」

「いや、特にこれと言った物は無いな」

「私も、特にこだわりは無いです」

「てか、ここ俺の家だし、飯くらい俺が作るよ」

「いいのいいの。泊まらせてもらってる以上、家事や料理くらいさせてよ。出来るだけお兄ちゃんには楽にしてて欲しいから」

「そうか? まあ、助かるけど」


 彩音は、人差し指を顎を当てながら、天井を見て『う~ん……』と悩む。


 そして俺は、ある事をふと思い出した。


「そう言えば彩音、この前母さんからリンゴが届いたんだけどよ、手紙の中にお前の名前が入ってなかったんだ。実家に居たんじゃないのか?」


 それは、だいぶ前に母さんから送られてきたリンゴの事。ダンボールの中には、たくさんのリンゴと手紙が入っていたのだが、手紙には……お母さんと弟の光太の名前しか記入されていなかったのだ。


「あぁ、たぶんその時からちょっと離れた場所にある、友達の家に行ってたかな。誕生日会に誘われたから」

「なるほどな。じゃあ、俺の家に来たのは?」

「夏休みに入ったし、久しぶりにお兄ちゃんに甘えたいなって思ったから来た」

「はいはい」

「お兄ちゃんから聞いてきたのに、なんでそんなに冷たいの?」


 たとえ家族とは言えど、好意を持たれるのは悪い気分にはならない。だが、彩音のちょっとしたおふざけには、もう聞き飽きた。


 プクゥと頬を膨らませた彩音は、俺の側へと歩み寄り、紫寄りのピンクの瞳で俺を見つめてくる。


「むぅ。柚梪ちゃんにはそうやって体寄せられても、何にも言わないくせにぃ!」

「いや、柚梪は兄妹とかじゃないし」

「じゃあ私、お兄ちゃんと兄妹の縁切る! そして私がお兄ちゃんと結婚するんだぁ!」

「待て待て待てっ!? 急に何言い出してんの!?」


 突然の思いもよらない言葉に驚きながらも、俺は彩音の頭を優しく撫でて落ち着かせる。 


「龍夜さんと彩音ちゃんは、本当に仲がいいんですね」


 すると、ソファーに座って、俺と彩音のやり取りを見た柚梪がそう言った。


「そうかな? まあ、昔から仲が良かったのは良かったけどさ」


 俺と彩音は、幼少期からずっと仲が良かった。大抵は彩音の方から寄ってきた。おもちゃやゲームで遊んだり、小学校や中学校も、ほとんど毎日一緒に登校してたな。


 もちろん喧嘩をしたこともある……が、だいたい3日以内には仲直りするほどだ。


 逆に、弟の光太はいわゆる陰キャ。出来るなら1人で居ることが好きなのだが、光太も家族だ。時々ゲームに誘ってきたりする。


 比較的に俺達如月家は、これと言った言い争いなどはなく、父さんは人前が良く、母さんは優しい平和な家族だ。


「羨ましいしいです。私は、お父様やお母様……ましてや姉様とも、遊んだことがありませんから」

「……柚梪」


 少し下を向く柚梪に、俺と彩音はなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。


「安心しろ、柚梪。何かやりたいことでもあるなら、俺や彩音に言え。喜んで付き合ってやるからさ」

「龍夜さん……はい、ありがとうございます」


 俺は柚梪の頭を撫でながら、優しくそう伝えた。その言葉に、柚梪は非常に嬉しそうだった。


 ピンポ~ン……


「ん? お客さんか? ちょっと出てくる」


 家のインターホンが鳴り、彩音と柚梪をリビングに置いて玄関へと向かう俺。


 玄関の扉についている取っ手を握り、ゆっくりと前へ扉を押し開く。

 すると、そこには4人の男性が立っていた。


「如月龍夜君だね? 君に、誘拐及び殺人の容疑で逮捕状が出ている。署まで来てもらおうか」

「……は?」


 

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