第44話 停車する黒い車

 午前7時頃、部屋の窓から太陽の光が差し込み、俺の自室を照らし始める。


 結局夜は眠ることが出来ず、太陽が登り始めた朝の5時くらいから睡魔に負けて、魂が抜けたかのように眠りについた俺だった。


「……? んん~……」


 太陽の日差しに照らされた柚梪が、ゆっくりと眠りから覚醒する。


 細めた目で部屋の天井を見て、すでに部屋が明るいことに気がつく。

 朝だと確信した柚梪は、左手を支えにして、体を起こす。


 少し寝癖が目立つ柚梪は、寝起きでポケェ~としており、右手で目の下を擦る。


 隣でぐっすりと眠る俺。しかし、彩音の姿は無かった。


 柚梪は、俺を起こさないように、ゆっくりとベットから降りると、俺の部屋を後にした。

 

 階段を降りて1階へ到着すると、脱衣場へ向かい、洗面台で顔を洗う。

 そうして目が覚めると、リビングへと向かう。


「うん? あ、柚梪ちゃんおはよ~」

「おはようございます。妹さん」


 リビングにはすでに、髪をツイテールに結んでおり、紫寄りのピンク色のカラコンをつけた彩音が朝食を作っている最中だった。お互いに挨拶を交わした後、柚梪は彩音の側へと歩み寄る。


「なに作ってるんですか?」

「別に、作ってるって訳でもないよ? 焼いた食パンの上に、ベーコンとケチャップでも乗せようと思ってるだけ。今はベーコンを焼いてるよ」


 彩音の手慣れた調理をじっと見つめる柚梪。


 チーンっとオーブントースターから音が鳴り、3枚の程よく焼けた食パン、トーストを取り出す。


「柚梪ちゃん。お兄ちゃんは起きてる?」

「いえ、まだぐっすりと寝てました」

「そっか。じゃあ、1つはオーブンの中に入れておこうか。この時間にはいつも起きてたのに、珍しいね」


 確かに小学生の頃から朝起きるのは早かったが、今回に関しては仕方ないだろ。


 彩音は3枚のトーストに、先ほどフライパンで焼いたベーコンを2枚ずつトーストに乗せて、俺の分はオーブンにしまった。


 冷蔵庫からケチャップを取り出すと、彩音は自分と柚梪用のベーコン乗せトーストに、ケチャップをギザギザ状にかける。


「はい、完成♪︎」

「わぁ~……美味しいそうです!」

「そう? 簡単に作ったやつだけど、そう言ってもらえて嬉しいな♪︎」

「妹さんは料理得意なんですか?」

「まあね。それから、私の事は彩音って呼んで? 私も柚梪ちゃんを名前で呼んでるんだし」

「え? はい、分かりました」

「じゃあ先に食べちゃおっか」


 2人はダイニングテーブル越しに椅子へ座り、トーストを食べ始める。


 トーストの外はカリッとしており、中は僅かにふんわりとしている。

 焼かれたベーコンとケチャップで、追加の旨みを堪能する柚梪。


「あ、彩音……さん。これ、とても美味しいです」

「別にさん付けじゃなくても良いよ。ありがと柚梪ちゃん」


 あっという間にトーストを食べ終わる柚梪に彩音。そのまま使った道具とお皿を洗う。


「柚梪ちゃん。もしお兄ちゃんに聞けないような質問とかあったら、いつでも言ってね」

「え? 龍夜さんに聞けないような質問……ですか?」


 彩音は食器を洗いながら、椅子に座って作ってあげたアイスココアを飲む柚梪にそう言った。


「そう。誰しも女の子はね、時には男の子に話せない事情とかがあるの。柚梪ちゃんも、いずれそういった事が来るだろうからね。私はいつでも相手になるから」

「はい……! 覚えておきます……!」

「そんな真剣にならなくていいけど……」


 柚梪と適当に会話をしながら、彩音は食器や道具を片付け、柚梪と歯を磨く。


 朝8時を過ぎた頃、彩音と柚梪はそれぞれ私服に着替えて、自由時間を過ごしていた。

 柚梪はソファーで雑誌を読み、彩音はキャリーバッグからノートパソコンを取り出し、ダイニングテーブルの上へ置く。


 ぶるぅーーん……


「……うん?」


 ダイニングテーブルにノートパソコンを広げて、適当にネットを見ていた彩音は、家の隣に車が止まる音を聞いた。


 窓付近に近より、音のした方に目を向ける。


 彩音は窓から外を覗くと、俺の家を囲う少し低めの石壁から、黒い車の天井が見た。


(黒い車が止まってる……まあ、一時的に止めてるだけか……)


 彩音は何事も無かったかのように、椅子へ戻ってパソコンを弄りだした。


 それから約1時間ほどすると、俺が遅れて起床する。それに対して彩音は、俺の分のトースターとココアを用意してくれた。

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