第43話 1人用ベットを3人で寝る

 あの後、数十分ほど彩音からの猛攻撃を受けた。


 彩音の体に巻かれたバスタオルは、徐々に結び目がほどけていき、なんとかバスタオルの結び目が完全にほどける前に、彩音を落ち着かせることに成功。


 しかし、ほとんどほどけてゆるくなったことで、彩音の膨らんだ胸が大きく露出したり、体全体の綺麗な肌があらわになったりと、刺激が強過ぎた。


 その後、赤紫のパジャマに紫色の髪を下ろした状態の彩音が、リビングへとやって来た。


 紫寄りのピンクをした瞳は、カラコンを外したことで、茶色い普通の瞳へとなっていた。


「……彩音。カラコン外したら、結構印象変わるな。髪は紫なのに、瞳は茶色。バランスおかしくない?」

「仕方ないじゃん。カラコンだって洗わないと汚れるし。コンタクトと変わんないよ」

「まあ、そうなんだけど……。てか、今思ったんだけどさ、お前その髪染めてんだろ? 染めた髪ってそう簡単に色落ちないの? それから、学校は髪染めても大丈夫なん?」

「染めたことに関しては、ちょっと特殊な機械使ってもらってるから、そう簡単にってより、多分色落ちないよ。学校もちゃんと許可取ってるから大丈夫」

「髪染めを許可する学校ってあるんだな……」


 まあ、彩音が楽しく過ごせてるのなら、別に何とも言わないが。


 すると、俺と彩音の会話を聞いていた柚梪は、俺に体を寄せたまま体を彩音の方に向けて、少し驚いた顔で彩音を見る。


「えっ、彩音ちゃんの髪の色って、染めてるんですか?」

「そうだよ。お兄ちゃん高校時代の時ね、アニメが大好きだったから、ちょっとアニメキャラ風にしたんだよ。可愛いでしょっ?」

「確かに……正直言うと、かなり可愛いけどよ……」


 妹だとは分かっているものの、髪に瞳に雰囲気まで変わっていると、自分でも『本当に妹なのか?』と疑ってしまうほどに可愛い。


 兄に見られたいからって、アニメキャラ風にコスプレを使わず自分を改造する妹って、この世の中に何人に1人の割合なんだろうな?


「それにしても、彩音ちゃんってこうして見ると、髪……本当に長いんですね」

「確かに。珍しくは無いが……少し長いよな」

「切った方がいい? 胸くらいまでかな? 切るなら」

「切るかどうかはお前に任せるけど、俺は長い髪の女性の方が好きだぞ」

「そう? じゃあ切らないでおこっと♪︎」

「龍夜さんは……髪の長い女性が好きなんですか? 私ももう少し伸ばしてみようかな……?」

「柚梪は今のままでも可愛いから、それほど伸ばさなくていいだろ。それに、柚梪の髪の長さは背中の真ん中くらいだから、俺からしたら程よいぞ」

「そうですか? 龍夜さんがそう言うなら、このままでもいいかな……?」

「またイチャついてる……」


 彩音は頬を膨らませ、ムスッとした顔になる。


 ちょっとした会話をした後、約束通りトランプを出して、定番のババ抜きをした。


 彩音が柚梪に簡単なルールを教えて、小1時間ほど3人で遊んだ。


 まあ、さすがにババ抜きだけでは飽きるので、途中に神経衰弱も入れて遊んだけど。

 ……てか、神経衰弱に関しては、彩音が非常に強すぎた。本当、脳みそがおかしいほどに数字の位置を覚えてやがった。

 シャッフルしても、時々ミスする時があるが、ほどんど的確にカードを取っていくんだ。バケモンだった。


 ある程度遊んでいると、気がつけば時刻は23時を回ろうとしていた。すなわち就寝時間だ。


 しかし、ここで1つ問題点を見つけてしまった。


「てか、2人ともどこで寝るよ? 俺のベットとこのソファーくらいしか寝れそうな所ないぞ?」

「え? 他に部屋は無いの?」

「一応、もう1つ2階に部屋あるけど……あそこは物置部屋として使ってるからな。寝るスペース全く無いぞ?」

「えっと……どうしましょうか……」

「まあ、柚梪はいつも通り俺のベットで寝な。彩音はソファー」

「じゃあ、お兄ちゃんどこで寝るの?」

「俺か? 適当に床で寝とくよ。女の子に床で寝かせる訳にはいかねぇだろ」


 それで決まりと思った俺は、洗面台で歯を磨きに行こうとするが、俺の右手を彩音が掴み、俺を引き留める。


「ダメだよ! お兄ちゃんだけ床で寝かせる訳にはいかない!」

「でも、他に寝る所無いだろ?」

「この家はお兄ちゃんのだし、ソファーはお兄ちゃんが使って! 私が床で寝る!」

「いや、さすがに俺も兄とて、妹を床で寝かせる訳には……」

「なら、3人でベットを使えば良いじゃないですか?」

「えっ……?」


 まさかの柚梪から、意外な提案が出てくるとは……


 でも、あのベットは1人用だし、寝れて2人が限界なはずだ。それなら、彩音と柚梪が2人で寝て、俺がソファーで寝ることも出来るのでは?


「それなら……2人でベット使えばいいじゃないか?俺がソファーで寝て……」

「嫌です……だって……龍夜さんと寝たいんですもん……」


 柚梪は少し下を向きながら、ゆっくりと俺の所へ歩いて来ると、俺の左袖を親指と人差し指で優しく掴む。


「でも、妹さんも龍夜さんと寝たいでしょうから……3人で寝るのは……ダメでしょうか……?」

「いや……ダメと言うか……入らないと言うか……」

「大丈夫だよ! 私と柚梪ちゃんが、最大限までお兄ちゃんに身体を寄せれば良いだけの話だから!」

「それ、俺が寝れないやつ」


 しかし、俺が否定しようとすると、柚梪が少しずつ悲しげな顔になっていくのが分かる。


 でもなぁ……女の子2人……ましてや2人とも可愛いし、挟まれて寝るってなると、絶対に心臓が持たない。


 だが、せっかく柚梪が提案してくれ事だし……ぐぬぬ……


「お兄ちゃん。せっかくだし、1日くらい3人で寝てもいいんじゃない? 柚梪ちゃんもお兄ちゃんと一緒に寝たいって言ってるんだし。ね?」

「うーん……はぁ、分かったよ。今日だけな」

「やったぁー!」


 その日、俺は彩音と柚梪の3人で1つのベットで寝ることになった。





 それから数分後、歯磨きを終えた俺は、彩音と柚梪を連れて自室を訪れた。


 柚梪を家に泊め始めてからは、服を取りに来る時だけ使っているから、こうして自分のベットを使うのは本当に久しぶりだ。


「お兄ちゃん……ダメ!」

「えっ?」


 俺が先にベットに乗ろうとすると、彩音が止めに入ってきた。


「なんだよ?」

「柚梪ちゃんが先。お兄ちゃんは真ん中」

「なんで……?」

「いいから」


 彩音の言われた通り、壁際に柚梪・真ん中に俺・外側に彩音が、1つのベットに横たわる。


 正直かなり狭い……そして、彩音と柚梪はそれぞれ俺の両腕を抱き枕みたいに抱きしめて、2人の体全体がほぼ密着した状態になっている。


 両腕に押し付けられる柔らかな感触……首もとに当たる2人の寝息……ほのかに香るいい匂い……


 俺は心臓がバクバクして、一向に眠ることが出来なかったにも関わらず、彩音と柚梪は安心したかのように、安らかに眠っている。


(いやいやいや! こんなん眠れねぇって!)


2人は10分も経たない間に眠り、俺はその日の夜……結局寝ることが出来なかったのだった。

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