第42話 ちょっとしたヤキモチ

 彩音が作ってくれたカレーを食べ終わった。


 今はお風呂に彩音が入っていて、俺はソファーで電子小説を読んでいた。


 最近、実際の書籍を買うよりも、電子小説には無料で全話読めるサイトやアプリがあるから、無駄なお金を使わなくても、小説が読めることに得した感を覚えた。


 そうしたのんびりと時間を過ごしていると、ふとあることを思い出す。


「柚梪、そう言えばお母さんについての話が全く無かったような気がするんだけど」

「お母様ですか?」


 俺の右腕をギュッと抱きしめ、俺に体を寄せながらスマホの画面を覗く柚梪に、そう問い掛けてみた。


 最初の柚梪が生まれてから、柚梪が家のルールを学び出した所までの短い間で、柚梪の母親についてが語られていなかった。


「お母様については……私にも分かりません。気がついた頃には、お母様は一切顔を出してません。おそらく、姉様も知らないかと」


 お姉さんでも知らないとなると、何か深い理由でもあるのだろうか。はたまた、別の家で生活してるとか?


 柚梪が分からないと言うなら、俺がいくら考えても分かるはずがない。この話は置いておくとしよう。


 それにしても……あまりにも柚梪が身体を寄せてくるもんだから、心臓がバクバクでまともに小説が読めない……


 今までは可愛い子猫のような甘え方だったから、逆に癒されたりもしてたが……もう完璧と言っていいほど女性になった柚梪に対して、見る目が変わってしまっている。


 灰色の髪も薄く綺麗になったし、肌もスベスベ……しかも胸まで大きく成長してしまった……


 透き通った甘い声を聞けば、誰しも耳が溶けてしまうだろう。腕からもフワッとした柔らかい感触が伝わってくるし……


 男性の性癖を破壊するために生まれてきた女性みたいだ。まさに、『髪色の薄さこそ、成長の証なり』じゃないか。


「なあ、柚梪……? ちょっと近すぎじゃないか? 出来れば、もう少し離れて欲しいのだが……別の意味で……」

「えっ、私……もしかして邪魔でしたか……?」


 とたんにシュンとした悲しげな顔になる柚梪。僅かに潤った瞳で、俺を上目遣いで見つめてくる。


「いや……邪魔って訳じゃないけど……本当に別の意味で集中が途切れると言うか……意識が行っちゃったりすると言うか……」


 俺は柚梪から目を反らして、明後日の方向を眺めながら、左手を後頭部へと持っていく。


 俺がスマホで小説を読んでいて、隣から覗いてくる分には構わないのだが……少し柚梪の居る方向に目を下へ向けると、服の首元から柚梪の膨らんだ胸の谷間が見えてしまうのだ。


 俺も1人の男として、可愛い柚梪の谷間を見てしまうと……どうしても意識がね……向いちゃう訳ですよ……


 柚梪は、さらに腕を抱きしめる力を強くする。 


 フワッとした感触から、ムニュッとした感触へと変わり、より柔らかな感触が腕から伝わってくる。


「柚梪……っ、もう少し力を弱め……」

「……ましかったんですもん」

「……えっ?」


 柚梪は少し空いた俺との間隔を積めて、頭を肩の上に乗せながら、小声でポツリと呟く。


「えっと……今、なんて言ったの……?」

「だから……その、羨ましいかったんです……」

「羨ましい……?」

「龍夜さんと妹さんが楽しそうに会話してる所を見たら……私も仲間に入りたいなって……」


 なるほど……彩音が突然変な声を出した時のやつか……楽しい会話では無かったが、柚梪から見たらそう感じたのか。


「なんだ、そう言うことか……心配しなくても、柚梪を仲間外れにしたりなんかしないからさ。よっぽどの事が無い限りは……」


 柚梪に聞かれたく無いことや、知られたく無いこと以外はね。


「それに、龍夜さんの側に居ると……心が落ちつ……」

「あぁーーーっ!? 私がお風呂入ってる間にイチャついてるぅーーー!?」


 柚梪が何かを言おうとしたその時、タイミング悪く彩音がお風呂から上がって来てしまった。


「……って、おい!? なんでバスタオル姿なんだよ!? パジャマ持って行ってただろうが!」

「カラコン保存用の容器を忘れたの! てか、柚梪ちゃんだけズルいっ! 私もお兄ちゃんに甘えるのっ!」

「バスタオル姿で抱きついてくるなぁ!? はっ!? 彩音っ! 待て……待ってくれ、タオルがほどけ始めてるって!?」

「お兄ちゃんになら裸見られても全然いいっ!!」

「俺が良くねぇよ!?」


 バスタオルがほどけ始めてるにも関わらず、ひたすら抱きついてくる彩音に焦る俺。


 一方、その様子を目でパチパチとさせながら眺める柚梪。突然のことに戸惑っているみたいだった。

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