第41話 妹の構ってアピール
真夜さんから『柚梪』と呼んで欲しいとのことで、俺はいつも通りの呼び方で。彩音は『ちゃん』をつけて呼ぶことになった。
敬語も使わず、気軽に話してくれた方が嬉しいとも言われたので、俺は今までと変わらず柚梪と接することにした。
まあ、やっぱり元々はお嬢様だから、多少躊躇はしたが、本人がそうして欲しいと言うなら、別に気にしなくてもいいかな。
その後、バイトの時間になってきた俺は、支度を済ませて、柚梪と彩音に留守番を頼んでから家を出る。
それから数時間、しっかりと働いてきた俺は、夜の20時30分を少し過ぎた頃に家へと到着した。
「ただいま~」
「あっ、龍夜さん。お帰りなさい」
「ん? 柚梪?」
家の玄関を押し開くと、目の前には脱衣場から洗濯物が入った籠を両手で持つ柚梪が居た。
「どうかしましたか?」
「いや……柚梪に洗濯の仕方とか教えたっけ? と思っただけ」
「洗濯物の干し方や洗い方を彩音ちゃんから教えてもらったんです。龍夜さんの家に住まわせてもらってる以上、私も何かお手伝いしたいので」
彩音から教えてもらったのか。まあ、あいつは意外と家事も上手だからな。
それに、なんだかリビングから良い匂いが漂ってくる。この匂いは……カレーか?
俺はバイト帰り、柚梪は洗濯物をしてくれている。つまり、リビングで料理を作っているのは……彩音しか居ない。
「彩音……? 料理作ってくれてたのか」
「あっ、お兄ちゃんおかえり~。もう少しで出来るから、ちょっと待っててね」
「おう……」
普段は俺1人で家事をしていたから、こうして誰かに料理を作ってもらったり、家の事をしてもらうのは、なんだか新鮮だな。
そうして俺は、体にかけた斜め掛けの小さなバックをソファーの上へ置いていると、料理を作りながら彩音が変な事を言い出した。
「あぁ……夜がやってきた……! 女の子を求めて獣と化したお兄ちゃんは、妹である私を襲って……あんなことや……こんなことを……」
「な~にバカな事言ってんだ。寝言は寝て言え」
「む~、冷たいなぁ。ちょっとくらい乗ってくれたって良いじゃん」
「あのなぁ、今は柚梪も居るだぞ? 変な誤解をされるかもしれないだろ? 妄想するなとは言わんが、口に出すな」
「はーい……」
全く、急に変な事を言い出すもんだから、正直驚いたぞ。いつからそう言うようになったんだ?
俺は一息を吐くと、またもや彩音が変な事を言い出したのだ。
「あんっ……お兄ちゃん……そこっ、ダメェ……!」
「おいっ!? さっき言ったばかりだろぉが! 柚梪に誤解されるから変な妄想すんなっ! バカ野郎!」
「これは妄想じゃないっ! 発声練習だもんっ!」
「どっちもほとんど変わんねぇだろ!」
これは完全にアウトだ。しかも、やけにリアルな声だったんだ。かなりビビったぞ……?
本当にやめてもらいたい。将来俺の妹が、あっちの方向に転がらないかが非常に心配だ。
「あの、なんだか騒がしいみたいですけど……何かあったんですか?」
「いや! 何でもないから! 安心して!」
俺と彩音の言い合いに駆けつけた柚梪が、リビングにひょっこりと顔を出す。
俺も兄として、柚梪が妹に対する悪い印象をつけたくない。なぜ急にあんな事を言い出したのかは知らないが、非常に心臓に悪い。
まあ、幼い頃から俺は彩音の面倒を見てきたからな。久しぶりに会えて嬉しいのかもしれないが。
「あ~あ、お兄ちゃんてば釣れないなぁ~。はい、カレー出来たよ。早く食べよ?」
「うわ~! 美味しそうです!」
彩音は3人分のカレーと炊いたお米をささっとお皿につぐと、ダイニングテーブルに並べる。
すると、椅子に座ろうとする俺の隣に立つと、彩音が俺の耳元で小さく囁く。
「お兄ちゃん♡ 今夜は……たくさん営みを……」
「しねぇよ」
「えぇ~……、良いじゃんちょっとくらいさぁ~」
「俺らは兄妹だ。そんな事をするような関係じゃねぇだろ」
俺は彩音のお誘いをキッパリと断る。むっと頬を膨らませる彩音。
「じゃあ、柚梪ちゃんにだったらするの?」
「はぁ!?」
すると、彩音はとても痛い所をついてくる。俺と彩音は兄妹である以上、彩音の事は可愛いと思うが、そう言った恋人のような関係になるつもりは無い。
しかし、柚梪に関しては血の繋がりが無い赤の他人だ。柚梪自身もモデル並みに美人になったことで、目が合うたびに、俺はドキッとしてしまう。
そんな柚梪とならするのか? と聞かれたら……正直じき答えずらい……
「柚梪とでも……し、しねぇよ」
「絶対嘘だっ! 柚梪ちゃんとならするんだっ! 血の繋がりが無い柚梪ちゃんとなら、いくらでもするんだっ!」
「バカっ! 声が大きいわっ!」
「……?」
再び始まる俺と彩音の言い合いを聞いた柚梪は、不思議そうに首をかしげる。
まずい、柚梪に聞かれてしまった……!
「あの、私とならするって……何をするんですか?」
「いやいや、何でも無いから。さあ、夕食にしよう……彩音、いい加減にしろ」
「ふーん……ごめなさーい」
彩音に小声でそう言うが、反省してなさそうな謝罪が返ってきた。
いや、少しやきもちを焼いているのだろうか? もしかしたら、構って欲しかったのだろうか?
「はぁ、そんなに機嫌損ねるなって。後でトランプでもしてやるから」
「えっ! 本当っ!?」
「急に元気になるやん。まあ、飯食って風呂上がってからね」
「はーいっ!」
「あの、私も……とらんぷやってみたいです」
「あぁ、良いぞ。じゃあ3人でやろうか」
すっかり元気になった彩音と、椅子に座って待っている柚梪。
これ以上柚梪を待たせる訳にはいかない。俺はすぐに彩音を座らせると、全員が手を合わせたのを確認する。
「それじゃあ、頂きます」
「いっただきまーす!」
「い、頂きます」
俺達3人は、彩音が作ってくれたカレーを黙々と食べ始める。
こうして誰かの作ってくれた料理を食べるのは、何ヵ月ぶりだろうか。
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