第38話 柚梪の過去 その4

「お姉……様……?」


 私が地下室に閉じ込められてから、約9年ぶりに、メイドさん以外の人が地下室へと入って来たのです。それが、私の姉……間宮寺夏柰姉様だったのです。


 私の気づかない間に、髪を切って短い髪型に、私と同じ灰色だった髪色も、すっかり白混じりの綺麗なねずみ色へとなっていました。


 私が地下室に閉じ込められたのが7歳の時。姉様は私より3歳年上なので、当初は10歳でした。

 しかし、9年と言う長い時間を過ごすことで、姉様は19歳と、高校を卒業していました。


 私はまともに食事も取らせてもらえず、身長はほぼ止まったまま。体重も徐々に減って、体も汚くなる一方で、姉様は目付きが鋭くなっているにも関わらず、一目見ただけで分かるほどの、美人と化していたのです。


 見違えるほどに成長した姉様は、綺麗な貴族らしい衣装を身に付けて、私の所へと歩いて来ました。


「うわっ、こんな汚い部屋で9年も過ごしてたんだ。暗いし埃たくさんあるし、しかもちょっと臭うわね」


 私の前に立った姉様は、私を見下すような目で見てくるのです。


「お姉……様? どう……したの……?」

「なに? あんた言葉もまともに喋られなくなったの? お父様の機嫌を損ねた妹が、どうな姿になってるのか気になったから来ただけ」


 私は正直……少し期待をしていました。姉様が私を助けに来てくれたのかもっと。私を心配して、お父様から許しを得てから、会いに来てくれたのだと。


 しかし……それはただの思い込みだったようです。


 元々、姉様は私を助ける気なんて微塵も無いんです。


「それにしても……汚いし。髪はボサボサ、色も薄くなるどころか、もっと濃くなってない? 服もボロボロ。 これが私の妹なのかぁ」


 姉様は私はジロジロと見ながら、思ったこと躊躇ちゅうちょなく口にしました。


「ま、あんたが無能なおかげで、勉強に集中して教えて貰えるし、お父様から貰えるお小遣いも、あんたが居ない分多く貰えるから、ありがたい限りなんだけどね」


 頭の良い姉様は、おそらくお父様から言われた事をすぐに覚えて、完璧にこなして来たのだと思います。きっと、お父様の機嫌をとことん良くして、たくさんのお金を貰っているのでしょう。


 服はともかく、姉様は右の薬指には、ダイヤモンドが付いている指輪に、首にはネックレスを付けていました。


 いったい、姉様はいくら貰っていたのでしょうか……


「まあ、今のあんたにお金の事を話しても分からないだろうね。ま、せいぜい頑張って生きれば~? ちなみに、これは私からのプレゼント。ありがたく受け取りなさい」


 そう言った姉様は、胸ポケットからポケットティッシュを1つ取り出すと、私の目の前に捨てるかのような感じで投げてきました。


「じゃあね~真矢。気分が向いたら、また会いに来てあげるね~」


 姉様は後ろ向きで私に手を振ると、そのまま部屋から出て行きました。


 結局、助けてくれるどころか、見下された上にバカにされたことで、当初の私はより心に深い傷を負いました。


 暗い部屋に居ると、とても時間感覚が狂ってしまいます。今が何時何分なのか……何日、何ヵ月、何年経過したのかも分かりません。


 姉様が私の居る地下室を去ってから、どれほどの月日が経過したでしょうか……ある日の事でした。その日のある事で、私の心は希望を微塵も持たない、絶望へと染まってしまうのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る