第35話 柚梪の過去 その1

 間宮寺家の娘として産まれた当初の私は、お父様とお母様から、たくさんの愛を受けました。


「あなた、見て。元気な女の子よ」

「あぁ。立派に産まれてきてくれたものだ」


 黒髪のお母様、間宮寺沙蘭かんぐうじさらと、現在の14代目当主、ねずみ色の髪のお父様、間宮寺鷹行かんぐうじたかゆきの間に産まれました。


 お父様が屋敷の仕事をしている間は、お母様が私の面倒を見て、時々休憩がてらに会いに来てくれるお父様に、頭を撫でてもらったりと、物心がつくまでの間は、とにかくたくさんの愛を貰いました。


 すくすくと成長した私は、6歳から間宮寺家の基本や、ルールを学び始めました。


 間宮寺家に生まれた子供は、男女問わずに6歳の頃から、こうしてお金を稼ぐことが大事だと、強く教えられてきました。


 私と姉様は、小学校へ通いながら、平日の夜や休日・祝日には、お父様が呼んだ専門の先生に勉強を教えてもらっていました。


 家で勉強を教えてもらう時は、とても苦しかったです。学校では、私が間宮寺家の娘と言うこともあり、先生方は、私をあまり強くは怒りません。


 家での勉強では、問題を解き間違えると、すぐに専門の先生から怒られてしまいます。


 学校には友達も少なからず居て、休み時間などで一緒に遊ぶのが、何よりも楽しい時間でした。家では遊んでいる時間がありませんから。


 これは、私が家で姉様と授業を受けている時のことです。


「それじゃ、今教えた方法を使って、この問題を自分の力で解いてみて」


 先生はホワイトボート2つを使い、教科書に書かれた問題の解き方を少し書き、自分の力で解くように言われるのは、いつものことです。教えてもらうのも大事ですが、自分で理解して解く方が、覚えやすいですからね。


 姉様は流れるようにすらすらと問題を解いていました。話によると、姉様は当時小学3年生でしたが、受けていた勉強の内容は、中学1年生と同じだと耳にしたことがあります。


「えっと……これはこうで、この数字が……」


 問題を1つ解くのに、かなりの時間を使っていました。


「はい、時間だ。ノートを見せて……うん。夏柰は良く出来てるじゃないか。全部正解だ」

「ありがとうございます。先生」

「それから……はぁ、真矢に関しては、3問しか解いてないじゃないか。それに、3つとも間違っている」

「ご……ごめんなさい……」


 このように、私は全く勉強が出来ませんでした。解ける問題数はほんの僅か。さらには、全て間違っている。正解する時もありますが、滅多にありません。


 中にも、音楽を奏でる勉強では、ピアノやバイオリンと言った、高度な楽器を使うのですが、それもダメでした。


姉様は勉強が出来、記憶する力に長けていました。そのため、最初こそ使えなかった楽器も、1週間も練習すれば、あっという間に使えるようになります。


「~~~♪」

「うんうん。良いメロディーだ。さすがは夏柰だ」

「ギ……ギギ……ギィ~~~……ブチッ、あっ……」

「真矢、お前は何本弦を切れば気が済むんだ? これで26本目だぞ?」

「……ごめんなさい」


 私は、バイオリンの練習をするたびに、必ず1本の弦を切ってしまうほど、故障した機械みたいな音が鳴るんです。


 そして、礼儀の勉強も……


「はい、ワン、ツー、ワン、ツー……よし。良い感じだ。夏柰は姿勢が良い上に、頭に乗せている本にも、ブレが一切無い。素晴らしい」

「嬉しいお言葉です。先生」

「次は真矢ね。いくぞ。はい、ワン、ツー、ワン、ツー……」

「慎重に……姿勢を正しく……集中し……あっ!?」


 頭の上に乗せた5つの本のバランスを取るため、上にばっかり視線がいってしまい、いつも足が引っ掛かってこけてしまうのです。


「真矢……お前本当に何も出来ないな。俺の言ったことをちゃんと復習してるのか?」

「うぅ……ごめんなさい」


 私はいつも、先生に謝ってばかりでした。褒められたことは1度もありません。


 当然、このことはお父様に報告されます。


「それで、今日の2人はどうだったのだ?

「はい、夏柰はいつも通り、しっかりと教えたことが身に付いています。しかし、真矢に関しては、未だに何一つ出来たことはありません」 

「はぁ……そうか。下がって良い」

「はい。失礼します」


 日に日に、私に対するお父様からの評価は、下がっていく一方。逆に、姉様の評価は順調に上がっていきました。


 私が勉強を習い始めてから、約1年後……お父様が私に示す態度は、だんだん厳しくなっていきました。

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