第26話 お昼寝
大量の荷物を持って、俺と柚梪は無事に家へ帰ってくることが出来た。
現在の時刻は、お昼の1時30分頃。
家に帰って来た俺は、食材をすぐに冷蔵庫へと収納し、少し遅めの昼食の準備に取りかかる。
一方柚梪は、荷物を俺に渡したあと、汗をかきながらソファーに座って、昼食が完成するのを待っていた。
台風も通り過ぎて、日差しが良くなってきた中、長袖長ズボンの柚梪は、これとないほど暑かったことだろう。
俺は、お腹を空かせる柚梪に出来るだけ早く昼食を取らせられるよう、ちょっと適当ではあるが、茶碗に炊いた白米をつぎ、ミートボールやウィンナー、スクランブルエッグと言ったおかずを乗せただけの、超簡単な昼食を作る。
「柚梪、こっちおいで。ご飯出来たぞ」
俺の声を聞いた柚梪は、ゆっくりと振り返って俺を見ると、ソファーからダイニングテーブルへと歩いて移動してくる。
椅子に座った柚梪にスプーンを渡すと、疲れているせいか、手を合わせることを忘れて、そのままゆっくりとご飯を食べ始める。
結構汗もかいてるし、それなりに疲れているのだろう。今回くらいは見逃してやるか。
俺は、柚梪に手を合わせなかったことを無理に言わず、脱衣場へと向かい、タオルを1枚持ってくる。
「柚梪、暑いだろ? あれなら、ズボン脱いでもいいからな」
食事中に邪魔をするのは、俺とてしたくはないが、ダラダラと汗が流れ出る柚梪の頭を、俺はタオルで優しく拭き取る。
タオルで頭を拭かれながらも、柚梪は少しずつご飯を食べていくが、俺が柚梪の汗を拭き取ったタオルを、脱衣場へと持って行き、ついでに洗濯機を起動させている間に、うとうとし始める柚梪。
数分後、俺がリビングへと戻ると、ダイニングテーブルに腕を置いて、腕を枕替わりにして、スヤスヤと眠る柚梪の姿があった。
ご飯も半分ちょっとくらい残っており、スプーンを握った状態で寝ている。
「あらま。柚梪には少し、運動が過ぎたかな」
俺は一息を吐くと、手に握るスプーンを回収し、茶碗の上に置く。
その後、柚梪を起こさぬよう、ゆっくりとお姫様抱っこで持ち上げる。
まだ完全な体つきには、少し程遠いが……そのせいか、柚梪の体は非常に軽かった。
普段バイトで、新しい商品の入ったダンボールを、結構持ち運びとかしているから、多少力がついているだけかもしれないが。
お姫様抱っこした柚梪を、ソファーの上に寝かせる。
柚梪の食べ残したご飯は、捨てるのも勿体無いため、残りは俺が食べた。あ、別にやましい意味で食べた訳では無いぞ?ちゃんとスプーンも新しいので食べたし。
そして、柚梪が寝っ転がるソファーの、空いたスペースに座って、柚梪の頭をゆっくりと持ち上げ、俺の膝の上へと置く。
まだ柚梪の体は冷えていないだろうから、うちわで軽く柚梪の首元を仰ぎながら、頭を軽く撫でる。
さて、あと2時間後にバイトがあるし、柚梪を膝枕してあげられるのは、1時間30分くらいかな。
柚梪優先でご飯作ったし、全く食べ物を口にしてないけれど、まあ大丈夫でしょ。
今はとにかく、柚梪の可愛いらしい寝顔を堪能しながら、ゆったりとした時間を過ごすことにしよう。
それにしても……こうして柚梪を見ると、最初に出会った時よりも、だいぶ成長したものだ。
柚梪を保護してから約2週間。今週の土曜日で3週間目になるけれど、未だに『あ』の一言すら喋ってくれたことが無いな。
まだそこまで心を開いてくれてないのか、はたまた喋られない病気か、完全に喋ると言う概念を忘れてしまったのか。
俺には分からない。柚梪が捨てられたのか、家出をしたのかなど。
でも……いつか、柚梪と楽しく会話が出来るようになる日が、訪れることを祈っている。
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