第23話 買い出し

 あの後、俺はなんとか柚梪にどいてもらい、歯を磨いたあと、コンビニで買ってきたパンを柚梪と食べた。本当なら、食事の後に歯を磨くのだが、なんか口の中が気持ち悪かったため、先に磨いてしまった。


 それからと言うもの、時間が出来れば柚梪は俺に抱きついて、俺の心臓音を聞いてくる。


 時間が経過するにつれ、台風が過ぎて行き、風も徐々に弱くなっていく。


 今日までバイトが臨時休日だから、ゆっくり出来るけれど、柚梪は小説を読むのでは無く、俺の心臓音を聞いているだけだし、退屈しないのかな?


 柚梪自体は退屈では無いようだが、さすがに何時間も膝に座られると、足が痺れてくる。まさかここまで効果があるとは……予想外だ。


 結局その日は、柚梪に甘えられてばかりの1日だった。ちなみに、夜寝る時も一緒だった。






 そして時間は進み、翌朝の10時を回る頃。

 俺はとある準備をしていた。それは、買い出しだ。


 普段俺1人の生活だったから、ある程度大量買いをすれば、約1ヶ月は持ったのだが、柚梪が家に来てから、少し食材の消費が早くなっていまった。


 家から徒歩30分の、そこそこ遠い位置にある大規模なショッピングモールに行かなければならない。


 1回で大量の食材や、他に使うものを買わなければならない。だから、準備は念入りに行う。


 まず、長方形の大きめな斜めがけバック。これには、冷凍食品や小さめの野菜を大量に収納出来る。

 よく高校生とかが、教科書を入れたりに使うが、俺は品物を入れるのに使っている。


 そして、車輪付きショッピングバック。よく見る手で引っ張る系のやつだな。これには、特に重たい米を収納する。車輪が付いてるから、引っ張るだけで持ち運びでき、非常に便利だ。


 あとは、ちょっとした大きめのバックとかだな。財布はポケットに入れればいい。


 午後からはバイトもあるから、早めに済ませておこう。


 最終確認をした俺は、さっそく玄関へと向かう。


「柚梪。ちょっと買い出しに行ってくるから、お留守番よろしくね」


 背後をついてくる柚梪にそう言って、俺は家から出ようとする。しかし、柚梪は俺の服を引っ張って、俺を引きとめる。


「どうかしたか? 柚梪」


 俺は、服を掴んで目を見つめてくる柚梪を見る。


 ん?と言うか……よく見たら、前に歯科病院へ連れてった時に履かせた、俺のズボンを履いている。普段下は、ボクサーパンツしか履いて居いないのに、いつの間に……しかも、靴下まで。


 すると、柚梪は玄関に置いてある、もう1つの俺の靴を履きだした。


 靴を履いた柚梪は、俺の服から袖に掴む場所を変更し、離そうとしない。


「ついて来たいのか? 買い出しに」


 柚梪はコクリと1回頷く。


 俺としては、ついて来る分には構わないが……灰色の長袖パーカーに、黒の長ズボン……濃い茶色の靴。

 うん。全くもって合っていない。季節外れな上に、俺が言うのもあれだけど……ダサい。


 とても夏に出かけるような服装じゃないが、柚梪はついて来る気満々みたいだし……恥を捨てなければ。


 女の子に着せるような服装じゃないけれど、柚梪が行きたいって言うなら……まあ、いいか。たまには柚梪にも、日光を浴びさせてやらないと。


 それに、柚梪が手伝ってくれるのならば、その分俺の手が空くし、もっと多くの食材や日常品を買えるからな。


 俺は柚梪の手を繋いで、家の鍵を閉めた後、ショッピングモールへと向かうのであった。

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