第17話 リンゴ

 お昼のハンバーグ弁当をお互いに食べ終わり、片付けが済んだ後、柚梪からの要望に応えて、リンゴの皮をむき始める。


 俺は右手に包丁、左手にリンゴを持って、親指でリンゴをゆっくりと回しながら、包丁で皮を落としていく。


 徐々に長くなる垂れたリンゴの皮に、柚梪はとても興味津々だった。


 最初は、うさぎちゃんの模様をしたリンゴにしようと思ったけれど、そう言った細かいことには、つい時間をかけてしまうんだ。


 柚梪が早くリンゴを食べたがってることを考えると、普通に皮を落として、切り分けた方が無難だと判断した。


 数分後、全ての皮がむけて、リンゴは丸裸状態となる。なお、細く長いリンゴの皮は、一切途切れていない。なんなら、リンゴの皮でネックレスが作れるな。


 俺の見事なリンゴさばきに、柚梪も感心しているようだ。


 まあ、ネックレスなんて作る訳もなく、即座に捨てるのだがな。


 丸裸になったリンゴのヘタを切り落とし、8等分に切り分ける。

 よく見る船みたいな形のリンゴを、小さな皿の上に乗せて、腰本にあるちょっとした小物入れの引き出しから、つまようじを2本取り出して、リンゴに刺す。


 完成したリンゴを、俺の隣でずっと見ていた柚梪の前へと置く。


「はい、完成したよ。俺と柚梪で4個ずつね」


 そして俺は、早速リンゴを1つ食べる。


 口の中に広がる甘い味に、噛むことでフルーツならではの果汁が出て、さらに口の中で甘~い味を楽しむことが出来る。


 うん。やっぱりフルーツは別腹だよな。


 俺がリンゴの風味を味わっている中、柚梪はつまようじに手すらつけていなかった。


「あれ? 柚梪、食べないのか?」


 口の中で、細かく噛み砕いたリンゴを飲み込み、柚梪へ問いかけてみる。


 すると、柚梪はつまようじ付きのリンゴを持って、俺に渡してくる。


「なんだ? 俺にくれるのか?」


 しかし、柚梪は頭を横に振って、空いたもう片方の手で自分を指差す。


「あぁ、食べさせて欲しいのか?」


 柚梪は少し微笑んだ後、コクリと頷いた。


 柚梪から、リンゴに刺さったつまようじを受け取り、柚梪の口元へと近づける。


「仕方ないな。ほら、あ~んして?」


 俺がそう言うと、柚梪は少し小さく口を開き、サクッと音を立ててリンゴの先端から、半分くらいまで食べた。


 満足そうに微笑みながら、口をモグモグさせる柚梪。その笑顔は、いつ見ても癒される……。


 ほんとっ……可愛いな。柚梪は。


 柚梪を拾って、家に迎え入れて正解だった。ずっと1人だった生活も、柚梪が来てからだいぶ変わった。


 それからも、俺はリンゴを食べながら、柚梪は自分の分がある限り、ひたすら『あ~ん』を求めてくる。

 それに応えて、柚梪にリンゴを食べさせてあげると、柚梪は笑顔になりながらリンゴを食べる。


 今でも十分可愛い柚梪。たが、忘れてはならないのが、まだ柚梪の体は万全と言えるほどの肉付きじゃ無いと言うこと。


 この先、まだまだ柚梪が可愛いく綺麗になるのかと思うと、良い意味で後先が不安になるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る