第10話 意思表示

 彼女が折り紙を折り始めてから約5時間。

 夕食、入浴を済ませて、再び夜の自由時間となる。


 夜20時頃、お昼と変わらず俺は小説を読み、彼女は折り紙がある限り、ひたすら折り紙を折っている。

 彼女は、折り紙で鶴を作るたびに、俺へと見せてくる。どうやら、鶴を折って俺に見せたら、『頭を撫でてもらいながら、誉めてくれる』と思い込んでいるようだ。


 実際、お手洗いと食事、入浴中以外はずっと折り紙を折っていた。

 おかげさまで、折り鶴の数はどんどん増えていき、今では合計11羽も折っている。

 なんなら、俺は翼を閉じた鶴を繋げて、千羽鶴にしているほどだ。


 ソファーに座って小説を読んでいる俺だが、気がつけば床に座って折り紙を折っていた彼女が、いつの間にか、ソファーで俺のすぐ隣に座って、自分の足を土台に折り紙を折り始めていたのだ。


 ある程度は、俺と一緒に暮らすことに慣れたのか、俺に対して心を許してくれているのか。


 全く、昨日連れてきたはずなのに、もう自分から近くに来てくれるようになるとは、俺の接し方が非常に良かったのだろう……自画自賛である。


「……ん? おぉ、また作ったのか。良く出来たな。なんだか、折るの早くなってきたね」


 そうこう考えてる間にも、彼女の折り鶴はどんどん完成していく。1つ、また1つと鶴が増え、千羽鶴が微妙に完成していく。


 頭を撫でてから誉めてやると、表情自体は変わらないんだが、目をつぶって撫で撫でを堪能している様子だ。それに、どこか嬉しそうな雰囲気も感じる。






 時刻はすでに23時を回ろうとしていた。


 小説もある程度読み終わり、俺は両手をグッと天に向けて、背中を伸ばす。


 すると、隣で折り紙を折っていた彼女が、またもや右袖で掴んできた。

 また鶴が出来たのか?と思いながら、彼女の方をそっと見ると、彼女は目を擦りながら見つめてくる。


「眠たいのか。ちょうど俺も、眠たくなってきた所だから、歯を磨いて寝ようかね」


 俺はそう言うと、ソファーから立ち上がり、洗面台へと向かう。もちろん、彼女も俺の後ろをついてくる。


 彼女の歯と、自分の歯を磨いた俺は、昨日と同じく2階にある俺の自室へと、彼女を連れて行く。


 彼女を俺のベットに寝かせて、お腹辺りまで薄い布団を被せると、『おやすみ』と言って、部屋を出ていこうとする。

 しかし、部屋を出ようとする俺の服を、寝っ転がった彼女は片手で引っ張る。


「……ん? どうした?」


 俺は、寝っ転がっている彼女にそう言うが、当然答えてはくれない。それどころか、服を離そうとしない。


「どうしたの? 俺もそろそろ眠たいから、用事があるなら、早く教えて?」


 小さな声で彼女に言うと、彼女は壁沿いに移動し、ベットに半分のスペースが出来る。つまり、一緒に寝たいって事なのかな?


「もしかして、俺と一緒に寝たいの?」


 俺の問いかけに、彼女は小さく頷いた。

 それを見た俺は、『分かった分かった』と言って、彼女が空けてくれたスペースに、体を彼女の方へ向けながら横たわる。


 すると、彼女は俺の体へと近づき、お互いの体がふれ合うほどまで近くに、寄り添ってきたのだ。


「おっと……はぁ、仕方ないやつだな」


 俺は軽く微笑むと、体を寄り添う彼女の背中に左手を通し、右手で頭を優しく撫でてやる。

 そうしたら、彼女は心地良さそうに、俺の腕の中でスヤスヤと眠り始める。


 じっと俺を見つめて、何かを伝えようとする時は多いが、鶴を見せて誉めて欲しいだとか、こうして一緒に寝て欲しいと言う、自分から仕草や行動をして、俺に今の意思を伝えるようになった。


 まあ、見つめられて何を伝えようとしてるのか考えないといけないし、こうして自分から意思表示してくれるのは、実にありがたい。


 まさか2日目で、自分から意思表示をし、甘えてくるようになるとは……俺は、自分の『人を世話する能力』が高すぎて、逆に怖いかもしれない。なお、自画自賛である。

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