第8話 おにぎり

 彼女の手を引きながら、ゆっくりと帰宅している時のことだった。


「……ん?」


 家まであと数分の所で、急に彼女が足を止める。


 そして、何かをうったえようとしているのか、俺の顔をひたすら見つめてくる。


「どうした?疲れちゃったか?」


 俺は、彼女の顔と同じ高さまで腰を下ろし、そう声をかけてみる。


 すると、彼女は黙ったまま、右手を服越しにお腹の上にのせた。


「あぁ、お腹が空いたのか。お昼まで1時間くらいあるけど……まあいいか。ちょうど近くにコンビニがあるから、そこで軽く食べれる物を買うか」


 優しく彼女の頭を撫でながら、俺がそう言って歩き出すと、手を引かれる彼女も、ゆっくりと歩き出す。


 ちょうど目の前に見えるコンビニへと入る。


 まだお昼じゃないからか、お客さんはあまり居ない様子だった。


 俺は、彼女の手を引きながら店内を見回る。


「うーん……何がいいかな? 金欠だから、出来るだけ安く済ませたいんだけど……お?」


 頭で悩みながら、お弁当類の置かれた棚を見ていると、ある食品に目がついた。


「おにぎりか。しかも、今日だけ50円引き……元々が140円だから、90円! 税込を入れたら、だいたい100円くらいか。よし、これを4つくらい買おう」


 棚に並べられた、シャケとツナマヨのおにぎりを、各2個ずつ手に取る。


 俺も彼女も、1個じゃ足りないだろうからね。


 それに、コンビニのおにぎりは安い上に、ある程度量もあるから、こういった小腹が空いた時や、時間が無い時などは、非常に助かる存在である。


 俺も、バイトで疲れて料理をする気になれなかった日が多々ある。そんな時に、節約もかねてコンビニのおにぎりには、大変お世話になっている。


「さすがに片手じゃ持てないな。ごめん、ちょっと手を離すね。よし、ついてきて」


 両手に2個ずつおにぎりを持ち、手を離した彼女にそう指示を出す。俺がレジへと歩いて行くと、彼女は指示通りについてくる。


 レジで両手に持ったおにぎりを店員さんに渡すと、店員さんはバーコードをスキャンし始める。


「4点を合わせまして、388円になります」

「……おっと、小銭が全く無いな。じゃあ、500円からで」

「かしこまりました。では……112円のお返しとレシートになります。ありがとうございました」


 お会計が済むと、店員さんはビニール袋におにぎりを入れてくれた。袋に入ったおにぎりを回収し、財布をポケットに入れ、再び彼女の手を引きながら、コンビニを出る。


 コンビニの外へ出ると、俺は袋の中からシャケおにぎりを取り出し、早速開封する。


「食べ歩きはあんまり良くないんだけどね……はい、ゆっくり食べな」


 上半分だけ開けたおにぎりを、彼女に手渡す。


「どうした?食べいいぞ?」


 上目遣いで見つめてくる彼女にそう言うと、片手に持ったおにぎりを、少しずつ食べ始める。


「食べながらで良いから、家に帰ろうか。ここに居たら、他のお客さんに迷惑だからね」


 そう言った俺は、おにぎりをゆっくりと食べる彼女の手を引き、少しずつ歩き始め、そのままコンビニを後にした。


 それにしても、何かを伝えようとする時、俺に対して仕草をしたな……例えば、さっきのお腹が空いたら手をお腹の上にのせる仕草とか。


 見つめられるだけだったら、何を訴えているのか、頭をフル回転させて考えないといけないから、結構疲れるんだよな。


 だから、そう言う仕草は分かりやすいから、非常に助かる。それに、少しは俺に……心を開いてくれたのかな?

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