第7話 歯科病院

 歯磨きを終えた俺は、彼女に俺のズボンを履かせる。かなりブカブカだが、ベルトでなんとか落ちないようにして、長いすそまくる。


 色も黒色で、上着との相性も良くない。でも、女の子用の服が無いため、今はこれで我慢するしかない。


 それに、まだ彼女を保護してから2日目。ガリガリの彼女を外へ連れて行くのは、かなり気が引けるが、虫歯は早く治しておかないと、後々面倒になるからな。


 出来るだけ彼女の肌を見せぬよう、夏にも関わらず長ズボンに、彼女が脱ごうしない灰色の長袖パーカー。一般目線で見れば、常識外れだ。


 彼女が物心を取り戻す前に行っておかないと、最悪家から出ない可能性もある。


 着替えが終わって、俺は彼女の手を握りながら、家を出る。鍵を閉めて、徒歩20分くらいの所にある歯科病院へと、出発するのであった。


 思った通り、近所の人や通りすがりの人から視線を浴びるが、気にしたら負けだ。


 朝10時頃、大通り付近にある歯科病院へと到着。


「いらっしゃいませ~」


 病院の扉を開いて、受付の看護師さんがお出迎えてくれる。


 この病院は、朝10時に営業が始まるせいか、中には受付の看護師さん以外、誰1人として人が居なかった。


「どのようなご用件でしょうか?」

「えっと、この子の歯を治療してもらいたくて」

「かしこまりました。保険証はお持ちでしょうか?」

「いえ、この子用はまだ持って無いので、新しく作ってから、後程持って来ます」

「かしこまりました。始めてのご利用になられますか?」

「そうですね」

「分かりました。では、こちらの方を書いて頂けますか?」

「……あっ」


 俺は提示された1つのプリントを手に取る。

 そこには、たくさんの項目があった。例えば……名前や住所、年齢など。


 そう言えば……彼女の名前を知らないって事、すっかり忘れていた。仕方ない、ここは別の手段をせざるをえないな。


「えっと……はい、出来ました」


 俺は、提示された紙の項目を出来るだけ全て埋めた。分からない項目には、空白もしくは予想で書いた。例えば年齢とか。


「ちょっと空白が多いですが」

「大丈夫ですよ。では、席が空いていますので、治療室の方へどうぞ」


 看護師さんの案内通り、俺は彼女を連れて治療室へと向かい、中に居る看護師さんに彼女を預ける。


 うーん……彼女の名前を聞くのを忘れていたと言うか、多分聞いても答えてくれないだろうな。せめて、名前だけでも分かればいいんだけどなぁ。


 俺は待合室で雑誌を読んでいると、治療室から……ウィ~ンと、ドリルを音が聞こえてきた。


 それから数時間、スマホを弄りながら長いこと待っていると、治療の終えた彼女が治療室から出てきた。


「お、終わったか。どれ、口を開けて? ……うん。綺麗に治ったじゃないか。良かったな」


 虫歯も歯石もある程度無くなって、彼女の歯は治療前よりも、白い歯を取り戻していた。


 たくさんあった虫歯に歯石が、綺麗さっぱり無くなっていることに、『やっぱり医者ってすげぇな』の心の中で呟く。


 その後、看護師さんに呼ばれて、俺は支払いを済ませた。正直、かなり手痛い出費だった……


「お大事に~」


 看護師さんに見送られながら、俺は彼女の手を優しく引いて、自分の家へと帰宅し始めるのだった。


 

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