第6話 歯磨き
朝6時を回った頃、窓から差し込む日差しが俺の顔を、徐々に照らし始める。
それと同時に、俺は深い眠りから覚醒する。
「んん? 朝か……って、うお!? ビックリした……」
ゆっくりと目を開くと、俺の隣には、ひたすらじっと俺を見つめる、少し寝癖が目立った彼女の姿があった。
まるで、日本人形に睨まれているかのようだった。朝っぱしから非常に心臓に悪い……
「おはよう。昨日は良く眠れたか?」
「……」
俺は、寝っ転がった状態から起き上がり、ソファーに座りながらそう言うが、何も返事は無い。
……ぐぅ~~~
すると、彼女のお腹が音を鳴らす。それも、しっかりと聞こえるくらい大きい音だった。
「あぁ、お腹が空いたのか。分かった分かった。少し早いけど、朝食にしようか」
俺はソファーから立ち上がって、キッチンへと向かうと、何も指示を出していないのに、彼女は昨日の夕食の際に座った椅子と、全く同じ椅子に座り、朝食が出来るのを待っていた。
よっぽどお腹が空いてたのかな?でも、自分から動いてくれるのは、俺としても指示を出さなくて済むから、非常に助かる。
数十分後……冷蔵庫と相談をした俺は、とりあえず適当に簡単な物を作るとしよう。
俺は
完成した料理を、彼女の前に並べた。
白米、味噌汁、ウィンナーや目玉焼き、キャベツと言ったおかず。あとは、透明のコップにお茶を一杯。
本当は、おかずを焼き魚にしようと思ったのだが、残念ながら、魚が無かったため和風から洋風に変更となった。
「どう?自分では、まだ食べられない?」
「……」
試しに箸を渡してみるが、うーん……やっぱり、俺が食べさせやらないとダメか。
俺は、ウィンナーと目玉焼きを、箸で適度な大きさにする。その後、ゆっくりと彼女に食事を取らせる。
『あ~ん』を言わなくても、俺が食べ物を掴んだ箸を近づけると、自分から口を開けてくれるようになったな。
どうやら、俺に対して、少し心を許してくれているようだな。良かった。
彼女の一口は小さいため、食べさせるのにすごく時間が掛かるが、しっかりと全部食べてくれる。
彼女に食事を取らせ終わると、俺は椅子から立ち上がり、次は自分用の食事を皿につぐ。
俺は、ササッと朝食を済ませる。彼女に見られてはいるが、特に気にはならない。
お互いに朝食が済むと、俺は少ない食器を洗い、水切りかごに食器を立て掛ける。
「よし。それじゃ、歯を磨こうか」
俺は、彼女の方を見ると、そう言った。
彼女を椅子から立たせて、脱衣場へ行く。洗面台の前に立ち、俺は予備で買っておいた歯ブラシを取り出し、開封する。
水で軽く歯ブラシを濡らし、歯磨き粉をつけ、彼女の前にしゃがみ込むと、口元へ歯ブラシを持っていく。
「口を開けて?あ~ん……」
俺の言葉に反応した彼女は、ゆっくりと口を開く。
口の中に歯ブラシを入れ、歯茎を傷つけないよう、慎重に彼女の歯を磨く。
シャカシャカと歯ブラシを動かし、隅々まで磨く。
なんか、娘を育てる父親みたいだな。
ある程度磨き終わると、彼女の口の中は、歯磨き粉だらけになる。
「はい。口の中のものをここに出して?」
彼女は洗面台に、口の中にある歯磨き粉を出す。
俺は、プラスチックのコップに水を溜めて、彼女の口元へ持っていく。
「お水を口に含んで。飲んじゃダメだぞ?」
彼女は水を口に含む。
「口の中で、お水を左右にゆすいでみて?」
彼女はゆっくりと、口の中で水をゆすぐ。
「はい。お水を出して」
洗面台にゆすいだ水を吐き出す。
その後、手を洗って彼女の使ったコップと歯ブラシを洗う。
再び彼女の前にしゃがみ、彼女の顔に手を当てる。
「ちょっと口を開いて?」
あ~ん。と、彼女は口を開き、俺は歯を確認する。
「うん。やっぱり、所々に虫歯があるね。
やはり、歯医者に連れてかねばならんか。小遣い的に、とても手痛い出費にはなるが、これも彼女のためだ。
よし、そうと決まれば着替えなければな。
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