第4話 オムライス

 お風呂(シャワー)で綺麗さっぱりとした彼女を、リビングへと連れて行き、ダイニングテーブルの椅子に座らせる。


「さて、風呂の次はめしだな。何を作ろうか……何か食べたい物はある?」

「……」

「まあ、そうだよな」


 当然答えてくれるはずもなく、俺は頭を悩ませる。


 何を作れば食べてくれるか。どんな食材や料理が嫌いなのか。喋ってくれない以上、考えても仕方ないのだが……


 実際、人や動物を保護なんかしたことないから、どう言った食べ物を食べさせれば良いのかが分からない。


「米があるし……無難にオムライスでも作るか」


 安全策を取るならば、オムライスが一番だろう。そうと決まれば早速キッチンへ。


 彼女が居ないボッチな俺だが、こう見えて料理出来る系男子なのだ。


 卵、ひき肉、玉ねぎ、にんじん。

 フライパン、まな板、包丁を使い、ささっと作ってしまおう。


 どのくらい食べるか分からないから、少し多めに作るか。そもそも食べるかすら分からないが、食べそうになかったら、俺が食えばいいだけだし。


 食材、道具を水道水で洗い、まな板の上で玉ねぎ・にんじんをみじん切り。コンロに火をつけ、ひき肉・みじん切りした玉ねぎ、にんじんをフライパンに入れ、炒める。


 炒めている間に、ボウルに卵を落とし、箸でかき混ぜ溶き卵にする。


 米は、昼に使ったのが炊飯器の中に残ってるため、それを使えばいい。


 皿に白米をつぎ、炒めた物をその上から被せる。その後、空いたフライパンに溶き卵を流し込み、じっくりと焼いていく。


 だんだんと良い匂いが部屋中に行き渡ると、椅子に座ってまっすぐしか見ていなかった彼女が、匂いにつられてキッチンを見る。


 焼き終わった溶き卵を、白米と炒め物の上に被せて、最後に冷蔵庫からケチャップを取り出し、卵の上にギザギザ状でかける。


「ほい。おまたせ」


 完成したオムライスを彼女の前に置くと、彼女は目を見開いて、オムライスを必死に見つめる。


 棚からスプーンを取り出して、彼女に渡してみるが……


「うーん、やっぱり食べさせないとダメかな?」


 スプーンを握って、ただただスプーンを見つめる彼女は、一向に食べる気配がしない。


 仕方ない。スプーンを一回返してもらって、俺が食べさせてやりますか。


 俺は彼女の隣に座り、スプーンでオムライスの一部を削る。湯気の出たホヤホヤのオムライスを、ゆっくり彼女の口へと持っていく。


「ほら、口開けて?」


 俺の言葉に、彼女はゆっくりと小さく口を開く。俺は彼女の口の中に、ほどよい大きさのオムライスを入れる。


「はい。よく噛んでから、飲み込むんだぞ?」


 彼女は口をモグモグさせ、ある程度噛み砕いた後、ゴクッと飲み込む。


「どうだ?俺のオムライスは美味しいだろ?ほら、まだまだあるぞ……てっ、あれ?」


 スプーンで再度オムライスを削り、彼女の口を持っていこうとしたのだが……


 彼女の顔を見ると、目は相変わらず開きっぱなしだが、両目から涙がポロポロを流れているではないか。


「なんだ?そんなに俺のオムライスが美味しかったのか?それとも、口に合わなかったか?」

「……」


 何も喋らない。分かりきってたが。


 でも、俺がそう言った後、彼女は俺の顔をじっと見つめ、若干口を開く。


 どうやら、口に合わなかった訳ではないようだ。少し安心したよ。


「そうか……美味しかったか?なら、俺も作った甲斐があったぜ。たくさんおかわりはあるから、どんどん食べな」


 俺はそう言って、再び彼女の口にオムライスを持っていく。それに対し、彼女も自分から口を開いてオムライスを食べる。


 懐かしいな。昔……幼かった妹に、母さんが作った飯を食べさせてあげてたっけな。


 今、その感覚を再度味わっているようだ。


 

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