第3話 お風呂

「ただいま」


 今日初めて、俺の家に人が来た。


 1人暮らしを始めてから、初のお客様だ。


 さて、まずはこの子の汚れ落としと、体を暖めるために、お風呂に入れるとしよう。


 まあ、お湯を炊いてないから、シャワーになってしまうけれど。


「ほら。君も上がって?遠慮はしなくていいから」


 戸惑っているのか、部屋に上がろうとしない。


 俺はその子の前に立ち、その子の顔と同じ高さになるようにしゃがみ込む。


「大丈夫。別に、何か悪さをするつもりとかは無いから。ね?」

「……」


 俺はその子に、優しく言葉を投げ掛ける。


 すると、安心したのか、段差を登って俺の家に上がってくれた。


「よし。じゃあまずは、シャワーを浴びようか。その汚れを落とさないとね」


 そうと決まれば善は急げだ。俺はその子の手を引き、脱衣場へと連れていく。脱衣場に到着したはいいが、ひとつ問題が発生した。


「これ……俺が服を脱がせて、洗ってやらないといけないのか……」


 この子は人形のような状態だ。1人で頭や体を洗い流すのは、無理に等しいだろう。


 それに、髪の長さからして、女の子だろうし……この家には俺1人しか居ない……


「仕方ない。出来るだけ見ないようにしよう」


 明後日の方向に視線を向け、ゆっくりとこの子の服を脱がせる。服を脱がす際に、指や手の一部がこの子にどうしても当たってしまう。


 一瞬触れた固く細い感触。これは肋骨だろうか。一瞬だけの感触だったが、それでもこの少女がいかに痩せていかがよく分かる。


 この汚れた服は使えない。ゴミ箱行き決定。


 この子の体に白いバスタオルを巻いて、胸から膝までを隠してお風呂場へ入ると、早速暖かいシャワーを出す。


 椅子に座らせながら、この子の目に水が入らぬよう、片手で目を塞いで、頭からお湯をかぶせる。


 体も一通りお湯で流すと、シャンプーをこの子の頭に、2~3回ほどかける。多分、しばらくの間お風呂に入って無いだろうから、髪が痛んでいる可能性がある。


 爪を立てないよう、優しくゆっくりと髪に泡が立つまで洗い続ける。


 シャワーで体を洗う用のタオルを濡らし、ボディソープをかけて泡立てる。このタオルに関しては、俺用のしかなかったため、仕方なく使っている。


 頭を泡立てたまま、体も泡立てたタオルで洗っていく。体の部位をタオル越しとは言えど、触るのは気が引けるが、これも仕方ない。


「よしっ、終わったぞ………」


 そうして、無事に洗い終わる。


 自分の手についた泡を流し、再び目を片手で塞いで、頭からシャワーで泡を流す。全ての泡を流し終え、お風呂場から出る。


 大きめのタオルで、頭と体を綺麗に拭き、まだ未開封だった、パジャマ用の灰色のパーカーと、男用ではあるが新品のパンツを着させる。


 夏入ってばかりだけど、パーカーは長袖で下着も男用しか今はないから、我慢してもらうとしよう。その内、女の子用の服を買わなければ。


 僅かに濡れた髪を、ドライヤーで乾かす。すると、泥に浸かったかのように汚れていた彼女は、見違えるほど綺麗になった。


 ボサボサだった髪も、滑らかな灰色のロングとなり、肌にも多少なりにつやが出てきた。


 少なくとも、女の子と一目見て分かるぼどにはなったな。


 まさかこれほど見栄えが変わるとは、サナギから綺麗な色を持つ蝶々になったようだ。


「おぉ!綺麗になったじゃん。やっぱり、髪が灰色なだけあって、灰色のパーカーが良く似合うな。下は無いけど……」


 ズボンはサイズが全く合わないため、履かせてない。まあ、パーカーで下着は隠れているが……


 ともかく、見事に汚れていた彼女は、見違えるほどに綺麗になり、女の子らしくなったのだった。

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