第37話 アリアの剣
私は「時の加護者」アカネ。
処刑場にてラヴィエ王女を助けるため猛獣トリュテスクローと闘うアコウ。だが圧倒的な残虐性をもつ猛獣にアコウは腹を裂かれてしまう。それでも攻撃をやめない化け物にラヴィエが剣を拾う。助けに行こうとする私を「運命の加護者」シャーレが制止する。その時、空から銀色に輝く剣が落ちてきた。
—フェルナン王宮 処刑場—
アコウの胸に突き刺さったのは王宮最上階の間に奉納されていた『アリアの剣』だ。剣はアコウの胸に深々刺さると、そのまま身体の中に沈んだ。それは『刺さった』というよりアコウに吸収されたようだった。アコウの身体全体が青白く光り、その輝きは右手へと移る。胸、腹、肩、腿の傷は塞がれ、ゆっくりと立ち上がるアコウの目はいったいどこを見ているのだろうか..ただ、そんな漠然とした気配に猛獣トリュテスクローは怯えを隠せなかった。
気丈にアコウを庇うラヴィエの前に一歩踏み出た時、ふらつく足が砂を鳴らした。そのわずかな隙を猛獣は見逃さない。両腕を上げて爪を振り落とした。
誰もが気が付かぬ間にアコウの手には『アリアの剣』が握られていた。剣は滑らかに何かをなぞる様に太刀筋を描いていく。それは『速い』とかそういうものではない。まるで初めから決まっていたかのように剣は流れている。水面の小さな波紋が広がる様に剣先が空気を押すと、空間そのものがゆっくり裂かれていく。やがて猛獣の大きな爪と首は、溶けたアイスがコーンの上から落ちていくかのように地面に転がった。
猛獣トリュテスクローを倒したのだ。それを確認するとアコウは再び前のめりに倒れた。
観衆は確かに聞いていた。この闘いが始まる前に処刑人が言ったことを。
『王ジイン様は慈悲深い。猛獣を倒せば減刑となるであろう』
場内がざわつく。自分が見たかった残忍ショーを観れずに不満を口にする者。アコウの芸術的な剣技を絶賛する者。またはこの先の展開を期待する者たちのざわめきが次第に大きくなっていく。
『おいっ!! どうするんだ! 』
しびれを切らした観客が大声で叫ぶ。
「 ..え、え~ 死刑囚は3人なので、あと2匹の猛獣を倒さなければ、減刑とはならない.. 」
もう無茶苦茶だ。初めから3人を惨殺することありきの処刑なのだ。その言葉を待たずに闘技場の壁の門が開くと2匹の猛獣トリュテスクローがけたたましく鳴いた!
『卑怯だぞ! 』と非難する観衆と『そうだ!
「シエラちゃん、行くよ! 」
「いいえ、アカネ様、どうやら僕らが行く必要はなくなりました」
闘技場にはいつのまにか褐色の肌そして銀髪をたなびかせる女性が立っていた。
「あぶない! 早く助けなきゃ! 」
猛獣トリュテスクローが女性に狙いを定め突進する。彼女が片手を上にあげると、手首に嵌めたリングは大きくなり、突進する猛獣めがけ飛んでいく。リングに
『こいつらは死ぬ運命にあった』
決め台詞だ。
「か、かっこいい!! 誰、あの子!? シエラ、あれ、魔法じゃない? 」
「魔法じゃありません。 あれは、運命のトパーズ、名はクローズです」
『私を知らない者はいるか? 』
クローズがそう言うと観衆は静まりかえった。私が手を上げようとすると、シエラに慌ててひっこめられた。
「アカネ様、恥ずかしいことやめてください」
「でも、みんな困惑してるよ? 代表して『お前は誰だ!? 』って聞いてやろうかなって.. 」
『誰だ!? 貴様は! 』と処刑人が言った。
「ほらっ! 先越された! 」
「まったく、アカネ様は.. 」
『処刑人、王都の入口へ行き、飾りにもならないその目を開いてしっかり見て来い! 』
クローズの言葉に、誰かが反応した。
「ああ、女神さまだ!! フェルナンの女神さまだ!」
『と、いうことだ。処刑人、私はお前が最初に言った約束をしっかり聞いているぞ。お前、嘘つきか? 噓つきの運命というのはだいたい決まっているぞ』
「ひっ、滅相もございません」
闘技場の騒ぎを聞きジイン王が駆け付けた。
「誰だ! 闘技場で八つ裂き刑をしようとしたものは!? 貴様か!? 」
ジイン王が処刑人の首を掴む。
「ひっ、わ、私は.. どうせ死刑囚だからいいかと.. どうせなら楽しみが多— 」
「し、死刑囚とはいえ我が娘だ!! 」
王の剣が処刑人を切りさいた。そして、クローズの前にジイン王は膝間づいた。
『やっぱり、嘘つきの運命とはこんなものだな。ジイン王、久しぶりだな。お前、しばらく見ぬうちに残忍主義者となったか? しかも自分の娘をこのような猛獣のエサにするなどとは.. 』
「クローズ様、これは手違いでございます。先ほど言った通り、死刑囚とはいえ我が娘、せめて一瞬のうちに苦しまぬようにと命じたのですが.. どこでこうなったのか.. 」
『処刑人は猛獣を倒せば「減刑もありうる」と言った。そしてアコウは見事に猛獣を討ち取った。それに関してはどうだ? 』
「 ..それは処刑人が勝手に言った事。我が娘ラヴィエをはじめそこの物はギプス国スタン王の暗殺を企てた嫌疑がかかっております。早急に刑を執行しなければ、ギプス国との友好は保てませぬ」
そのジイン王の言葉を聞くと『ヤレヤレ.. 』とシャーレが腰を上げた。
そして一呼吸大きく息を吸うと『アカネよ、お前の力を少しもらうぞ』と肩に手を置いた。なぜか鼻の中にミントのスーッとした香りが広がった。
そして、もうびっくり仰天だ。乳母の老体はみるみる若返り150cmの身長は165cmと高くなったのだ。服は上下にセパレートしへそ出しルックのように少しエロチックでなんとも妖艶な雰囲気となった。
「では、ジイン王に挨拶してくるわね。あ、そうだ。何があっても手出しは無用よ。いいかしら? 」
シャーレは言葉遣いまで変わり、腰を振るような歩き方で闘技場の中へ歩いて行く。
「ねえ!! シエラ、これって魔法じゃない!? あの2人魔法使いじゃない? 」
「魔法ではありませんし、魔法使いでもありません! 」
いっこうに魔法を認めないシエラ。絶対に魔法だと思うんだけどな..
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