第27話 ラヴィエ

— 王国フェルナン アリアの町 —


感謝祭は最高潮に盛り上がり、メインディッシュのアリア鍋が振る舞われた。


このアリア鍋は、味噌ベースの味付けに肉と野菜の旨みが溶け込んだスープが深みとコクを生み出していた。さらに、魚介類のだしも加わっていて、まさに無敵の鍋スープだった。


絢爛豪華な具材の中でも私が気に入ったのは「ぽっくろの実」だった。スープが瞬時に染み込んで、まるでじゃがいものようなほくほくとした食感は、極上の味わいと体の芯から温かさを届けてくれた。


私とシエラが我先と腹へ鍋をかき込んでいる姿を見て、向かいにいる女の子がクスクスと楽しそうに笑っている。目立たない茶色のフードを被っていてよく見えないが、白くてとても奇麗な指先、肌の感じから年齢は私たちと同じくらいだろうか。


私と目が合うと彼女の方から歩いてきた。


「こんばんは。いかがですか? アリア鍋は」


「こんばんは! 凄く美味しいよ」


「モゴモゴ〇△%ムグムグ」


相変わらず口をいっぱいにして話すから何言ってるのかわからない。母親の前だったら『はしたない! 』といわれるやつだ。その姿を見てまたクスクスと頭を小刻みに揺らして笑っている。その口元を指先で隠すしぐさから少し高貴な感じが漂っている。


「ごめんなさい。でも私、こんなに笑ったの久しぶりなの。もう、お二人のおかげでとっても楽しい感謝祭になりましたわ。それにあちらのお仲間のアコウさんもとっても料理がお上手で。今日本当にここまで来てよかったです」


「えっと ..この町の人ではないんですか? 」


「あら、ごめんなさい。私、ラヴィエと申します。今日は感謝祭を楽しみに王都からやってきたのです」と言いながらフードを外した姿に私はびっくりしすぎて声が出なかった。


「ん..ング。僕はシエラだよ。よろしくね、ラヴィエ! 」


ゆるい巻き毛のあかるい栗毛色の髪、ほんのりと桃色の健康的なほほ、大きく穏やかな目元、そしてぽってりとした下唇、その女の子は私の親友杏美ちゃんと瓜二つだった。


「..ワァ~ン! 無事だったんだね!! 杏美ちゃん! よかった! よかったよ~」


私はラヴィエに抱き着いた。


「あ、あずみちゃん? 」


「あ、あ、あのアカネはちょっとお酒飲みすぎて混乱しちゃってるみたい。すいません」


シエラが羽交い絞めにして引き離そうとする。


「ちょ、シエラ! 何すんのよ! あ、杏美ちゃ~ん! 生きててよかった! 」


うれしくて号泣する私をラヴィエはギュっと抱きしめてくれた。


「シエラさん、大丈夫ですよ。放してあげてください。しばらくこのままで大丈夫です」


ラヴィエはこの町の人とは全く違う良い香りがした。


「ね~、ね~、お姉ちゃん、またあっちで雪だるまつくろうよぉ」


「俺、大きいだるまつくったよ。お姉ちゃん見てよ! 」


2人の子供がラヴィエの袖を引っ張っていた。


「ごめんなさい。私、ちょっとこの子たちの相手をしたらまた来ますので、あとでまたお話ししましょう」


ラヴィエは再びフードを被ると2人の子供にひっぱられて広場の方へ歩いて行った。去り際、ラヴィエと手をつなぐ白い手袋をする女の子が手を振った。


「シエラ。杏美ちゃんどうやってこっちに来たのかな? 」


「あの方は杏美ちゃんではないですよ。きっと杏美ちゃんと魂のつながりがある方です」


「え?! 」


「もしかしたら、ヨミに狙われているのはラヴィエなのかもしれません」


「そうなの!? じゃ、ラヴィエが生きているという事は杏美ちゃんも無事って事よね」


「そうですね。どうやらアカネ様とは魂で引き寄せ合っているようです」


「ところで、私、ラヴィエといる少女、ビーシリーでも見た気がするんだけど、気のせいかな? 」


「さぁ? どうでしょうね.. 」


その時、シエラはラヴィエが何者なのかをなんとなく察していたようだった。私は、群衆に紛れて凄腕の護衛がいることなど、全く気が付かなかったのだ。

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