第3話
中三の前期の美術の課題は自画像だった。自分で決めたテーマを背景に、自分の胸から上を紙の三分の一を使って描くというものだった。私は背景に砂漠を描いた。時間になっても子供が遊びをやめたがらないように、美術の時間の後の休み時間、私は少し残って絵を描いていた。次のクラスの子たちがちらほら美術室に入ってきた。美鈴もやってきた。美鈴には移動教室の際に一緒に行動するような友達が同じクラスにいないため、今日も一人だった。美鈴は私を見つけ、少し笑って手を振ると、私のところへやってきた。美鈴は私の絵をのぞき込んでしばらくすると、こう言った。
「あ、人がいる。」
絵の中の人を見つけてくれたのは、美鈴が初めてだった。そして後にその人を見つけてくれた人は現れなかった。私の絵の中には、二人の私がいた。画用紙の三分の一を占める、無表情で少し俯き加減の私と、背景の砂漠の中の小さな小さな棒人間が、私だった。
「迷子?」
美鈴は言った。そう、迷子だった。棒人間の後ろに尾を引く足跡はくねくねと曲がっていて、方向が定まっていなかった。
私はたまに放課後に残って美術の課題の絵を描いていた。私と同じように放課後に残る人はちらほらいたが、私一人だけが残っている日があった。普段通り自分の絵を取り出して描いていたが、しばらくして集中力が切れてきたので、美術室の中をぶらついていた。ふと思いついて、廊下にも誰もいないことを確認して、こっそりと日向の絵を取り出した。二つの顔が描かれていた。題名は「私・俺」だった。
日向の一人称は「俺」だった。日向とはそれまで全く知らない仲だったが、中三の時に同じクラスになった。初めは日向の一人称に戸惑ったが、一人称が「僕」の女の子の友達も数人いたので、それと似たようなものだと慣れていった。日向は女の子達よりも男の子達との方が仲が良く、男友達が多かった。日向の男友達の内の一人で、日向とかなり仲が良かった同じクラスの子が、日向が自分のことを「俺」というのを、「お前男か?」と言ってからかった。私もたまに日向をからかった。
「日向男なんじゃないの?」
「ちげーよ、女だし。」
日向はいつも否定した。この時はわからなかった。知らなかった。今思えば、日向はこう答える度に辛い思いをしていたのだろうと思う。日向には申し訳ない。
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