第8話 番外編:厄災の落とし子③

A-7120宙域の暗闇を、数多もの閃光が走る。


スラスターの航跡がまるで絡み合う何十本もの糸の様に交錯し、100mmアサルトライフルから放たれる曳光弾によって遠くから見ればそれはまるで巨大なイルミネーションにも見えた。


そして眩い閃光達の中で,特に動きが機敏な光があった。


その光は誰よりも眩く輝き続け他の光を一つ、また一つと消していく。


自らの光を保つ為に他の光を食らっているかのように。


《何だってんだあの機動力は!?》


《落ち着け!奴の武装はガトリング砲と対艦スカッターキャノンだ!あんな弱装弾、ロクに当たるモンじゃ――》


恐るべき加速力で迫って来たユリスのヴァルチャーが、レッドバック隊第2小隊の隊長機に肉薄し対艦スカッターキャノンを撃ち込む。


勿論模擬戦用の弱装弾の為、実際に撃破される事は無いが胴体に被弾した隊長機は撃墜判定を受け、機体がその場で強制停止する。


《レッドバック16、ロスト!!》


《クソッタレ!精度が悪いスカッターキャノンでも、ゼロ距離で撃ち込まれりゃあお終いだろうが!!》


対艦スカッターキャノンとは、名前の通り大型のフレシェット弾を放つ対艦兵装だが極端な反動の大きさとそれによる精度の悪さで対AF戦には明らかに向いていなかった。


だがもし当てられたとすれば、それは敵を一撃で葬る恐るべき一手となるだろう。


《まずい……!こいつ一機に手間取ってる間に敵の本隊が来たら!!》


《新たに12時の方向より急速接近反応!数60、一個中隊規模のAF!!》


《噂をすればお出ましか!!》


ストレルカ隊はユリス機と交戦しているレッドバック隊を捕捉し、攻撃を始める。


四つの柱は分裂し、宙に模様を描くように60機ものAFが展開していく。


ユリス機に苦戦していたレッドバック隊は慌てて迎撃の用意を始めるも、散々隊を荒らされたお陰で足並みが中々揃わなかった。


《フン、ユリス……期待以上の暴れっぷりじゃないか》


ストレルカ01は未だ敵部隊を引っ搔き回すユリス機の姿に笑みを浮かべる。


《レッドバック隊、残存機41》


《まだ10分と経ってねえんだぞ……あれが厄災の落とし子…!》


《レッドバック隊も多くの戦場を切り抜けた精鋭だ。それがあんなに!》


連戦続きの経験故か、ユリス機を相手にしつつも辛うじて体勢を整えたレッドバック隊とストレルカ隊が衝突する。


互いに幾多もの戦場を駆けた精鋭達。


彼等の繰り広げるドッグファイトが、暗闇の宇宙で輝く数多もの星々の一つとなって瞬く。


「撃墜スコア一位は俺だああッ!!」


前方にいるレッドバック隊のヴァルチャーを捉え、アサルトライフルの銃撃を躱しながら左腕一体型のガトリング砲を浴びせる。


小口径のガトリングではまだ撃墜判定は出ないが、弾幕により敵機が攻撃を中断し回避機動に移ろうとした隙にスラスター出力を全開まで上げ、目と鼻の先まで迫った。


「これで、20機目!!」


目の前にいる敵機に向かって、スカッターキャノンを放つ。


模擬戦なので機体は無傷のまま停止するだけだが、実戦であればコックピットとその周辺が吹き飛んでいた。


それほどの近距離でしか、彼は引き金を引かなかった。


この模擬戦、結果的にユリスのスタンドプレイによってストレルカ隊の勝利に終わった。

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