第6話 番外編:厄災の落とし子①

デイヴィッドとユリスは、血の繋がった本当の親子ではない。


彼、ユリスはレオナルド社によって生み出された軍用の人造人間、アーティフィシャンだからだ。


では何故二人は互いを家族として呼び合うようになったのか。


その理由は、何十年前にも遡る。


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若かりし頃のデイヴィットには、妻がいた。


彼女の名はリンダ。


彼が人生で唯一愛した女であり、最も彼を愛した女でもあった。


コロニーのジャンクヤードで働いていた貧しいデイヴィットは、同じ職場でリンダと出会った。


ガラクタの山しかないジャンクヤードで汗水垂らしながら働く彼にとって、彼女とする会話だけが唯一心の安らぎを得られる瞬間。


リンダもそう思っていたようで、二人の関係は知り合いから友達へ、友達から恋人へと徐々に深まった。


二人が恋人になってから暫く経った時リンダは、1人の赤子を身籠っていた。


男で、まだ名前は決めていないが二人は彼の誕生を心待ちにしており、彼はこれ程までの幸せは無いと生まれる日を待ち続けた。


しかし、その日は来なかった。


重病で、胎内の赤子諸共リンダは息を引き取った。


現代の技術なら簡単に治る病気の筈だったその重病が治療できなかったのは、ただ医療費が足りなかったが為。


勝者のみが甘い汁を啜れるようにシステムが整備されたこの世界で、デイヴィッドのような貧民達弱者が勝者の恩恵に預かれる筈も無かった。


『おい…リンダ!リンダ!!しっかりしろ!!お前が死んだら腹の子はどうなる!!』


『…せめて、私が死んでも…貴方がこの子を育ててくれれば…』


『馬鹿言うな!!お前が生きて一番最初に息子を抱くんだろうが!!こいつを生まれた時から母無し子にする気か!!』


『ごめんなさい…許してなんて、傲慢よね……デイヴィット、私の可愛い…』


結局、妻の死後最後の希望であった赤子も既に胎内で息絶えていた。


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それから何年も後、彼はレオナルド社の宇宙軍士官として勤める様になった。


大事な物を一度に二つも失い、自暴自棄になった彼は宇宙軍に志願した。


当時の宇宙軍は企業間戦争が最盛期にあったというのもあって最も戦場に出る機会が多い軍隊だった。


自殺をする勇気の無かったデイヴィットは戦場に行けばいつかは死ぬだろうと、宇宙軍で働く事を決めた。


だが、彼の思惑に反して数々の戦場では生き残ってしまい、そこで立てた手柄から階級だけがどんどん上がっていった。


気付けば、軽巡洋艦「マックス・ハス」の艦長にまで上り詰めていた。


哀れな自殺志願者からいつの間にか、数十年の間戦場を駆け続けた宇宙軍の猛者に称号の変わった彼は、結局命を捨てる事は叶わなかった。


そして丁度マックス・ハスの艦長に就任した時だった。


レオナルド社の科学者達に、「厄災の落とし子」とまで言わしめたアーティフィシャンが来たのは。


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《西暦2888年 軽巡洋艦マックス・ハス艦内》


「このアーティフィシャンと、試作型宙域制圧兵器を貴官に預ける」


試作型の宙域制圧兵器が送られてくるのは知っていたが、まだパイロットの顔を見た事が無いデイヴィットは初めて対面し、瞠目する。


「か、彼が…あのAFのパイロット…ですか?」


「そうだ……やはり驚くだろうな」


少し目を離した隙にそのアーティフィシャンの青年は、格納庫の中を好き勝手に動き回っていた。


「へぇー、ジュリウス級ってこんなに狭いんだな!本社のスコルピオ級とは全然違う!」


一人はしゃぐ彼の姿を見ながら上官は話を続ける。


「見ての通り、アーティフィシャンだが肉体と精神力の強化段階であのように僅かな幼児性が発現し、それに情緒も少々不安定だ」


「大丈夫なのですか……あれでは肉体年齢相応のただの子供では」


「だが、あれを……マスターマインドを生きて目覚めさせることが出来たのは、選りすぐりのアーティフィシャンの中でも彼一人だけだ」


上官の話によれば、マスターマインドに搭載された最新型の機体制御システムであるマインド・スレイヴ・システムの起動試験に於いて、他のアーティフィシャン達が次々と発狂死していくのに対して彼だけが何の影響も受けずに無事に起動する事に成功した。


「難儀だとは思うが、速やかに彼を我が軍の戦力に足るパイロットに仕立て上げて欲しい」


その命令に、彼は拒絶を許されなかった。


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