第2話 旅路の始まり

〈西暦2981年 A-7952宙域〉


レオナルド社とカリスティア社両軍の衝突が始まってから3時間程経った頃。


「230機の攻撃隊も全滅か…やはりあの第141艦隊は簡単には沈んでくれんか…」


レオナルド社艦隊のジュリウス級軽巡洋艦、「マックス・ハス」の艦橋の中で艦長のデイヴィット・マクスウェルは呟くように言った。


敵のカリスティア社第141艦隊は、昔から不敗の艦隊として多くの企業から恐れられてきた。


彼等を不敗たらしめているのは間違い無く、第141艦隊旗艦である「エンタープライズ級戦闘母艦」だろう。


カリスティア社が開発した史上最大の艦艇であり、形状は円筒形でそのサイズは全長25㎞、直径4㎞という艦艇としては異常なレベルのサイズを誇る。


スペースコロニー並みのサイズのこの艦艇には勿論多くの武装などが装備されており、防御はハリネズミの如く強固で数百機のAFですら近付く事も叶わないという。


しかも戦闘母艦と呼ばれているが為にAFの発艦も可能だが発艦だけでなく、帰還したAFの整備・修理は勿論、なんとAFの製造ラインまで完備されているという。


最大で1200機のAFの同時発艦が可能で、たった一隻で一個艦隊の戦闘を担うことが出来るとされている。


レオナルド社やその他の企業達は、この船を恐れこう呼んだ。


「宙飛ぶ帝国」と。



「敵艦隊から高速接近反応多数!AFです!」


「数は!?」


「敵機、数600機以上!」


「遂に来たか…対空戦闘用意だ!」


対空戦闘の始まりに艦橋の中が慌ただしくなっている頃、扉が開き一人の男が飛び込んで来た。


「敵が来たんだろ!俺を出撃させろ!俺と、俺の機体なら奴らを殲滅できる!!」


飛び込んでくるなりいきなりデイヴィットに向かってそう捲し立てる青年の名はユリス。


このマックス・ハスに所属するただ一人のAFパイロットだった。


「…駄目だ、お前の機体は重要な切り札であり使い時を見極めなければならん」


「エンタープライズが来てる時点でもう使い時だろ!!」


その時、艦橋のレーダースクリーンに多数の友軍機の反応が現れる。


「エーリカ級及びカーマン級、アイザック級、ヒンメル級母艦より迎撃機750機の発艦を確認!」


レーダースクリーンに表示された750機ものAFは敵の攻撃隊と交戦を開始する。


レオナルド社AF部隊は多数の敵AFに苦戦しつつも、確実に迎撃を成功させていた。


「見ろユリス。お前が無理をせずとも、我が軍には優秀な兵士達が数多くいる。少しは彼らを信用してはくれまいか」


そういうと、ユリスは大きなため息をつき、艦橋から出ていく。


「だが、本当にやべえ時は絶対呼べよ!!」


「無論だ」


==========


艦隊決戦開始から既に8時間が経過したが、状況は芳しくなかった。


AFと艦艇による飽和攻撃により敵艦隊もかなりの損害を受けてはいるが、しれはレオナルド社艦隊も同じだった。


開戦時の艦隊戦力の約半数を喪失し、残された者達も皆深手を負っていた。


だが、ここで引く訳にはいかない。


ここで引いてしまえば、A-7952宙域に於いて第141艦隊は野放しになってしまう。


そうなれば資源惑星の支配権は完全に失われ、大赤字どころの話ではなくなってしまう。


この戦いは、正に社の存亡を賭けた戦いなのだ。


「艦長、艦隊司令より入電です!」


「読み上げろ」


「“我、コレヨリ総攻撃ヲ開始スル。貴艦ハヲ以テ、敵艦隊旗艦ヲ攻撃サレタシ”…!」


告げられた内容に、デイヴィットは少しの間の逡巡を経て決心したように顔を上げると、マイクを手に取り館内放送に切り替える。


《ユリスに告ぐ、貴官の出撃を命じる。直ちに発進準備を開始せよ》


その放送を聞いた格納庫内にいたユリスは、笑みを浮かべる。


「待ってたぜ…クソ親父!!」




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