第12話 夫婦の亀裂

「…尋渡…あのね…私…」

「…友矢と寝た感想は?」

「…えっ…?尋渡…」

「まさかと思ったけど……本当なんだな?」



俺は陽南に一枚の写真を見せた。



「えっ…!?…嘘…これ…」


「口で言っても信じないだろうからって、アイツから俺の携帯のみに届いた証拠写真」


「…尋渡…」

「酔った勢いってやつ…?目を疑ったよ」



「…お姉ちゃん……嘘……だよね…?」

「藍李…」

「藍李…ちゃん…」

「…ごめん…会話…聞こえて……」



「………………」



私は歩み寄り

ガシッと、お姉ちゃんの両腕を掴む。




「ねえっ!嘘だよねっ!?尋渡さんいながら弟のアイツと関係持ったの…!?」


「ねえっ!……尋渡さん…嘘…だよね…?」



「……………」




私はゆっくりと振り返り、尋渡さんの腕を掴む。


尋渡さんは首を左右にふった。




「…合成でも何でもない…ハッキリとした証拠写真あるから…」



確かになんとなく、そういう会話が聞こえた気がする。


でも………




「…えっ…?…証拠…写真…?」




尋渡さんは携帯を見せた。



ベッドに姉と思われる女性の後ろ姿と、上半身裸の弟の姿。


更にもう一枚、姉の寝顔と一緒に撮った弟の写真だ。



「アイツ…家族内での隠し事は嫌いだから、写真送って正直に話したんだと思う。こうなった経緯も全て話してくれた」




「………………」



「私!アイツに文句言ってくる!」


「藍李ちゃん待って!」




グイッと引き止める尋渡さん。



「離してっ!」

「これは!夫婦の問題なんだっ!」




ズキン…


「藍李ちゃんが文句言ってどうにかなる問題じゃないからっ!一方的に言った所で何か変わるの?」


「…それは…」


「とにかく…この件に関しては、証拠写真を見ただけで詳しい内容も知らない藍李ちゃんが入る事じゃない!」



「………………」



私は、渋々、部屋を後に出て行った。


だけど、私はいても立ってもいられず、外出した。




「…とは言っても…アイツの住んでる場所知らないんだっけ…?」



私は途方に暮れ、家の近くのコンビニに戻ってきた。


そんな中、さっきの出来事がふと脳裏に過る。




なんで?


どうして?


その言葉だけがループする


夫婦関係がなかったわけでもない


両家族とうまくいってないわけじゃない


じゃあ…何?



お姉ちゃんの中で何があったの?




もしかして……


尋渡さんに対する


私の想いがお姉ちゃんにバレてる?




それとも……


アイツかお姉ちゃんの心の中に


特別な感情があった?




じゃあ結婚した理由は……?


意味は何……?





「お姉ちゃんは経験あるから、どうって事ないんだろうな……そういう風に体の関係持つ事…平気で怖さとかなくて…私なんて……。…でも…相手いながら過ち犯すのは…」






経験ない私には全く分からない


初めてだからこそ


守れる気がする





《私だって…尋渡さんと…》






帰るに帰れない。




「…どうしよう…?」

「何が?」

「帰れなくて…」

「帰れない?どうして?」

「えっ…?つーか、何ですか?あなた!」





ドキン…



「尋渡さん…」



私は店を出ようとした。



グイッと引き止められる。




「は、離してっ!」

「離さない。家、帰るよ」

「やだ!帰らないっ!」

「どうして?」

「帰りたくないからっ!」



バッと振りほどき私はコンビニを飛び出す。




「藍李ちゃんっ!」



私は駐車場で足を止める。




「………………」



「…なんで…?」

「えっ?」


「どうして、そう簡単に体の関係になれるの?私、全っ然!分かんないよっ!」


「藍李ちゃん…」


「尋渡さんがいて、夫婦関係ないわけじゃないのに…」




「………………」




「体の関係があるとかないとか関係なく、今、俺達、夫婦関係がうまくいってないのが現状なんだ」


「えっ…?」


「俺、仕事で出張多くて、アイツに…陽南に家の事、任せっきりだし、そんな中、子供の話が時々、出るみたいで…アイツもアイツなりに悩んで、お酒で紛らわしてハネ伸ばしたかったみたいで」



「だからって…弟と体の関係持つとか…」



「寂しかったんじゃないかな?」



「………………」



「…藍李…ちゃん…?」



私は、歩き出す。




「ちょ。ちょっと!藍李ちゃんっ!待って!何処行くの!」


グイッと引き止められた。



「寂しかっただけ!?それだけでHするとか有り得ないっ!ズルいよっ!初めてじゃないから出来る事だよね!本当に…それだけ…なの…!?」



「…藍李ちゃん…」


「そんなの…私だって…!」




私は下にうつ向く。




「…なんで…?…私だって尋渡さんが好きなのに…何も出来なくて…お姉ちゃんは、尋渡さんがいても、弟と関係持ったり出来るの……」



「………………」



「初めてじゃないなら何でもありなわけ!?」



私は顔をあげ、背を向ける。




「…藍李…ちゃん…さあ、とにかく帰ろう。送るから」


「…えっ?…送るって?…一緒に帰るんでしょう…?」



私は振り返る。



「…俺は…」

「尋渡さん?帰らないの?」

「帰るよ。帰る。帰るけど……」

「けど…?何?」



「………………」



「尋渡さんが…帰らないなら私も帰らない」

「えっ…?」


「…一人が…良い…?いない方が…良い…?だったら…でも…私は…尋渡さんの傍にいたい…」




「………………」




「…それが…尋渡さんの…答え…なんだね…分かった…分かりました!!帰る!帰ります!だけど、一人で帰るから!」




私は足早に帰り始める。



グイッと引き止められた。




「どんなに近くでも一人は危ない」

「平気です!」

「藍李ちゃん…」

「じゃあね!」



グイッと再び引き止めたかと思うと、駐車場の方に移動する。



「ちょ、ちょっと!尋…」



ガチャ


バン




私を車の助手席に乗せ、運転席に尋渡さんが乗り込む、



「車で…来てたんだ…」

「来てたけど…」

「だったら…すぐ着くじゃん…歩いて帰った方が…」




そう言う私に尋渡さんは駐車場を出ると家と逆方向に車を走らせる。




「えっ…!?ちょ、ちょっと…!尋渡さん、家と逆方向…」


「帰りたくないんでしょう?」

「…それは…」

「義理妹(いもうと)なんだから付き合えよな。藍李」




ドキッ



「…呼び捨て…」

「別に減るもんじゃないっしょ?」

「そうだけど…」

「で?何処行く?」

「何処って…そんなの…」



私達は出掛ける。





あなたに名前を呼ばれる度に


胸のトキメキと


胸の高鳴り




今日1日だけ


特別な女の子でありたい



あなたの傍にいてあげたい


何があってもいい


私の胸を貸してあげるから


あなたの傍にいさせて下さい


好きな人の力になってあげたいから――――




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