第5話 Prison and Inquisition

連れて行かれたのは、遠く離れた中央都市の大聖堂の地下だった。

神父様が先に進み、衛兵が私を連れていく。

やがて着いたのは牢獄だった。


「リリアさん。しばらくの間はここがあなたの場所です」


表情無く、淡々と言葉を紡ぐ神父様。

指示された衛兵が、私を牢獄の中に押し込み、そのまま鍵をかけた。


「……牢獄……」

「……明日から、審問が始まります。今日は休んでください」

「審問…?」

「ええ。異端審問です」


異端審問。

その言葉の持つ不穏さに、震えるようだった。


すでに去った神父様が残した言葉が、ずっと頭の中で繰り返されていた。



翌朝から、異端審問が始まった。

大聖堂の上位階にある異端審問所には、会ったことのない教会の人たちがずらりと並んで、入室した私をじっと見つめていた。


「では、審問を始める。背信の疑いがかかっている被告人。前へ!……では、被告人の容疑を読み上げたまえ」

「では……私から」


そういうと神父様が私が描いたフェリスの絵を取り出し、私が絵に込めた『その人物』への気持ちは愛以外にはありえないと発言した。


――我慢ならなかった。

私の、この大切な気持ちを踏みにじられた。


でもそんなことは教会には全く関係のないことで、私とフェリスをダシに、同性愛という罪をまるで娯楽のように弄んでいるように思えた。


秘めておくべき他人の愛をひけらかし、それを教義に反すると声高々に断罪しようとする。


同性愛者だと蔑む視線と声。

反論を許さない、一方的な断罪。

私が生きている事自体が、大きな罪であるように――

そして、それを嬉々として――まるで悪魔の首を取ったかのように、審問所で大立ち回りを繰り広げる教会の人たち。


こんなことが、何日も、ずっと続いていった。


次第に私はすり減っていき、最初は反抗しようと足掻いていたけれど、教義を盾にした大勢の大人の前では、私一人の抵抗なんて全く意味のないようなものだった。


でも、それでも、たった一つだけ、守れたものがある。


「この人物も被告人と同じく同性愛者なのではないかね!?なぜ連行してこなかった?」

「その人は……何の……関係もありません……しら、ない人、です……」

「嘘を付くな!絵まで描いているんだぞ!親しい関係だったのだろう!!」

「たまたま……綺麗な……本当に綺麗な方が通りかかったので……ぜひ絵にしたくて、モデルをお願いしました……それ、だけです……その人は、私とは……か、関係、ありません」

「……よろしい。では判決を言い渡す!汝、リリア。教義に反し、同性愛者であることを隠していた罪は大罪である!よって汝には同性愛者であることを示す烙印を押し、命尽きるときまでその罪と向かい合うことをもって釈放とする!」


こうして

私は、最も大切な人を、弄ばれずに済んだ。


同時に私の額には烙印が押され、


それは誰から見ても、私が同性愛者であり背信者であるということを示していた。


教義至上主義のこの世界では

私はもはや人ではないと言われている気がした。


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