EPISODE2 大東亜機関

「これがおじい様からの遺言書と大東亜機関の機密資料です。いわば、これがおじい様からの遺産の目録になります」


 それは、2022年8月21日のある夏の暑い日の出来事だった。

 当時、メガネは二十歳になったばかりで、そこは東京の祖父の実家の邸宅である。

 東京にしては広く、堅牢な赤レンガの高い壁に囲まれてるが、大豪邸という程ではない。

 メガネの祖父である服部鬼一郎はっとりきいちろうの執事の富山とみやまが、服部家の家紋<源氏輪に並び矢紋>の入った桐の箱の中の分厚い資料を故人の机の上に並べた。

 祖父は代々徳川家に仕えた服部半蔵はっとりはんぞうの子孫でもあった。


「これは…膨大だな」

 

 メガネは赤い『マル秘印』が押された資料を一目見るなり弱音を吐いた。

 そこは亡き祖父鬼一郎の書斎で、その執務机にメガネは腰を下ろしていた。


「そういうと思いまして、分かりやすいVR3D資料も用意いたしました。机の上のVRゴーグルをお掛け下さい」


 早速、銀色に輝くVRゴーグルを掛けてみた。


「これは分かりやすい。さすが、富山だね」


「どういたしまして」


 VR3D資料はメガネがいつもやってるVRゲームである<剣撃ロボットバトルパラダイス>の操作方法と同じで、メガネには馴染み深かった。


「大東亜機関組織図…北朝鮮、南朝鮮、満州、上海、マカオ、インド、タイ、マレーシア、ビルマ、リビア支部。これって何なんだ?」


 メガネは疑問点をそのまま口にした。


「文字通り、北朝鮮、南朝鮮、満州、上海などが、文字通り、大東亜機関の下部組織になっています」


 富山は当然のように言う。


「国自体が下部組織なのか? どういうことだ?」


 メガネがVRゴーグルの外部モニター越しに富山を見直した。

 白髪交じりだが、それが目立たぬように短く切り揃えた髪、丸メガネ、執事らしい燕尾服姿である。


「第二次世界大戦、太平洋戦争という呼び名は、あくまで米国などの戦勝国である連合国の言葉です。旧帝国日本軍では<大東亜戦争>と呼びます。<大東亜戦争>は戦後、占領軍であるGHQによって禁止された言葉ですが、大東亜戦争の目的は<大東亜共栄圏>建設にあるとされています。その主目的はアジア全域で欧米の植民地支配の打倒を目指すものであります。確かにあの戦争は日本の自衛を目的とし、<大東亜共栄圏>の建設も、もうひとつの目的だったのです。早くから連合国に勝利することは不可能と分析した陸軍参謀本部は、海軍の裏切りも予想していて、当初から日本が戦争に負けた後の戦略を策定していたのです」


「海軍の裏切り?」


 メガネはふと気になる言葉をつぶやいた。


「真珠湾攻撃において、海軍中将南海正一第一航空艦隊司令長官は真珠湾の巨大重油タンク、海軍工廠を目標とした第二撃を行わずに戦場を離脱しました。戦後、この判断は戦略作戦ミスだと批判を浴びます。確かに、真珠湾近海には所在不明の米国空母二隻がいて、日本の空母機動艦隊を温存し、アジア戦域に回したい慎重派の南海中将からすると、そういう判断も正しかったかもしれません。そもそも、真湾珠の巨大重油タンクは攻撃目標のひとつだったのに、第一次攻撃でも攻撃せず、ミッドウェー海戦では甲板での攻撃機の魚雷装填作業中に、わざわざ、上空の直掩護衛戦闘機を海面近くに引かせ、敵の急降下爆撃を招いてます。そのために、連合艦隊の虎の子の空母である赤城、加賀、蒼龍、飛竜の四隻を一気に失い、その後、太平洋戦域では海軍は敗退を続けます。航空艦隊参謀の海軍中佐堀田真がこのふたつの作戦に関わっており、戦後、『日本を敗北させた論功』で参議院議員になりました。さらに、米国からも叙勲を受けています。その他にも帝国日本海軍の作戦において、海軍の奇妙な行動、判断が多発します。敵前逃亡し、戦後は(株)久里浜工業を創業し東証1部上場で資産家になった久里浜健一郎、山上武蔵司令長官も死を装って米国に亡命した説も存在します。戦後、海軍の社交場であった『水魚社』が秘密結社フリータイソン本部ビルになったりしてますので、そこから海軍内部へ工作活動が行われたのかもしれません」


「なるほどね」


 メガネ的には歴史本やゲームなどから多少知識はあるにしても、情報量が多すぎてついていけなかったので曖昧に返事してみた。

 富山の話はまだ続くのだが。


「北朝鮮は大東亜機関工作員の朝鮮名<金索>が建国した国ですし、南朝鮮、韓国は安曇元総理の父親である安曇信太郎氏が李氏朝鮮の最後の皇帝李信の日本名であり、皇室の成川宮貴子さまと戦略結婚されてます。日韓の仲が悪いのは偽装で、従軍慰安婦問題なども南朝鮮に資金を公然と送るためです。上海を支配している江馬超の実父の江三世は日本軍占領下の江蘇省で日本の特務機関ジェスフィールド76号に協力していました。日中戦争時代には日本の傀儡政権である汪兆銘政府の官僚であり、大東亜機関の工作員でした。息子の江馬超は日本の大東亜機関の大学で学んでいて、日本語ペラペラで、酔っぱらうと炭坑節を歌います。天安門で孤立した中国を日本が救け、上海の発展を援助し、中国経済を作り上げていきました。中国共産党本部の洗脳が行き過ぎて反日暴動とか起こったりしてますが、中国共産党本部からのスパイ疑惑を避けるための江馬超の反日パフォーマンスが行き過ぎた結果でもあります。マカオのカジノ王タンレー・マーも元々、大東亜機関出身です。戦後、アジアのみならず、アフリカ諸国も独立しましたが、リビアのサファリー大佐も大東亜機関の工作員で、米国からの暗殺を逃れて、今は大東亜機関特別顧問になってもらってます」


「いや、そうだったんだ」


 メガネ的にはもううなづくしかないというか、これは大変な遺産を引き継いでしまったなと断ろうと思ったが、一歩も引かなそうな富山の顔つきを見て、暗い気持ちになっていた。









(あとがき)


 戦後の陰謀論的話に尾ひれをつけて全部、ぶちこんでみましたが、これはあくまでフィクションです。

 一部はかなり事実かもしれないが、ストーリーの都合でそういう話にしたというご都合主義ですね。結構、文字数かかったので、いや、一万字ぎりぎりになるかも。


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