第20話 学院が襲われていました

「ライオット君、私も連れていって貰えないかしら」



 そう言ってきたのはエステルさんだ。



「構わないが」


「ありがとう。私が生まれ育った街の危機に早く駆けつけたいの」


「な、なら、あたしも! あたしもいいよね、ライ!」


「構わないが」


「なら、僕も」


「構わないが」



 右腕にエステルさん、左腕にレティシア、団長は背中の大剣にぶら下がる。



「行くぞ、掴まっていろ」



 俺は脚に力を入れて跳躍する。



「きゃあああああああああああああ」



 俺の耳元で叫ぶエステルさん。大木の3倍近くは天に舞い上がる。



「さ、流石ね、ライ」



 以前、豚人との戦闘で抱きかかえた事があるレティシアはエステルさんよりは冷静だ。



「ライオット君は本当に人間かい?」


「それは言うなと、理事長お婆さんに言われている」


「「えっ!?」」


「成る程ね」



 レティシアとエステルさんは何やら驚いていたが、背中の団長はクスクスと笑っていた。


 そして、数回の跳躍を繰り返し学院の校庭に降り立つ。





「ライ!?」



 着地後に三人を降ろし、腰に下げた銀色の魔剣を抜く。団長から貰った剣が陽光を弾き、美しく輝く。



「烈風剣!」



 空を黒く埋め尽くす小悪魔の群れに、剣気を乗せた烈風剣で大きな穴をあける。


 空を跳ぶ魔物との戦いは、飛び蜥蜴や鳥女で慣れている。空を飛ぶ小さな悪魔の数は多いが何とかなるだろう。


 見れば他方からも、魔法の光が空を飛ぶ小悪魔達を焼いている。


 そして、綺麗だった校舎は半分近くが小悪魔によって窓ガラスを割られ、羊顔の悪魔によって外壁が破壊されている。



「ここはライオット君に任せるよ。エステルちゃんは侯爵家と合流してくれ。僕はアルディ君の所に状況を確認しにいく」


「分かった」


「ありがとうございます、団長」


「あ、あたしはどうしたら……」


「レティシアちゃんは、ライオット君と一緒に、校舎に張り付いているインプを退治してくれるかい」


「はい」




 

 校舎の半分は酷い有様だが、もう半分は無傷。魔法の壁のようなもので守られている。


「あれは理事長が張っている結界ね」


「理事長お婆さんか。ならば大丈夫だろう」


「えっ、何が?」


「疾風剣・アラシ!」



 剣先から竜巻のような強風を発生させて、結界の壁に張り付いている悪魔どもを吹き飛ばす。

 

 『疾風剣・アラシ』は、烈風剣よりも強度の低い疾風剣に、風魔法の嵐を乗せた技だ。剣撃よりも、風魔法の嵐を強化した技と言っていい。


 アラシに巻き込まれた小悪魔達は風魔法の力で切り刻まれていくのが見えた。しかし羊顔は傷付きはしているが、倒れる事はない。


 空に舞った羊顔や、瓦解した校舎にいた悪魔達が、俺に気が付き向かってくる。



「ラ、ライ!」


「大丈夫だ。俺から離れるな」



 多数の悪魔がこちらに向かっている。不安な顔をしているレティシアを左腕で抱え上げ、そのまま腕に乗せた。



「しがみついていろ」


「うん!」


 

 不安気な顔をしていたレティシアが満面の笑みを見せる。なぜそうなるのか? 女心は相変わらず分からないな。



 多数の黒い悪魔の群れ。以前にコロボックルの村に飛来した御器噛王コックローキングの群れを退治した時の事を思い出す。



「疾風剣・茨姫!」



 疾風剣に植物魔法の蔓薔薇を乗せた剣技。剣先から疾風剣の剣気に乗って、無数の蔓薔薇が飛び出し、悪魔どもを絡め取る。



「ハァッッッ!!」



 その蔓を横に払い、空を舞う多くの悪魔どもが、更に蔓薔薇に絡み付く。



「ゥリャアッ!」



 剣を下から上に振り上げ、蔓の束を直上に放り投げる。



「烈風剣・バーストエッジ!」



 巨大な飛び蜥蜴も一撃で屠る烈風剣・バーストエッジ。蔓薔薇に絡め取られた悪魔どもは、烈風剣の剣気が乗った、風魔法の嵐の刃で切り刻まれていった。





「みんな大丈夫!」



 学院付近の悪魔を一掃した俺は、レティシアに連れられ校舎の中に入った。廊下を走るレティシアに「廊下は走るな」と言ったら、「今はいいのよッッッ!!」と、何故か怒られた。分からん。


 そして二階の教室に飛び込んだレティシア。俺も続いて教室に入った。



「レティシア様!」



 そう声を発したのはセレナだった。教室にいる生徒全員がレティシア様に注目し、そして後から入った俺に全視線が集まった。



「きゃあああああ、カッコいい!」

「青狼騎士団様よ!」

「素敵ぃぃぃぃぃぃ!」

「結婚して下さい!」

「あの人、めちゃめちゃ強かったな」

「悪魔の群れを一掃とか、どんだけ強いをだよ!」


 

 そしてやたらと賑やかになっていく。しかし、俺は青狼騎士団ではないのだが……。



「やたらと賑やかだねぇ」



 俺に気配を感じ取らせずに、俺の背後に立つ人間。振り向けば、そこには理事長お婆さんがいた。



「おや、誰かと思えばライ坊かい。青狼騎士団に入って来たのかい?」


「いや、俺には美化職員の仕事が有るから断った」



 教室の生徒は再度レティシアに注目して、俺と理事長お婆さんの話を聞いている者はいないようだ。



「ライ坊が来てくれて助かったよ。よわい八十のバアさんじゃ、結界はそう長くは続かないからね」



 そう言いながらも外の結界を維持しているのだから大したものだ。



 ピキィィィイイイッッッ!



 土砂崩れが発生する時に鳴る、大地が割れるような音が響いた。



「またかい!」



 理事長お婆さんはそう言うと、教室の窓の方へと早足で向かった。生徒達も窓へと向かう。



「またとは?」



 俺も理事長お婆さんについて行きながらそう聞いた。



「今のは古代迷宮の結界を、魔物が突き破った時の音さね。つい少し前にも、あの音がして悪魔どもが飛び出してきたのさ」



 そして窓際の生徒が騒ぎだす。俺も窓際に到着し外を見れば、三体の大きな悪魔が、蝙蝠の翼をはためかせ空を飛んでいた。



「あ、あれは――」



 豪胆な理事長お婆さんが青い顔をしている。



「あれは、グレーターデーモンかい!?」



 グレーターデーモン? 悪魔のボスか?



「強いのか?」


「この街を灰にするぐらいにはね」


「それは困るな。ちょっと、行ってくる」



 俺は二階の教室の窓から、校庭へと飛び降りた。


 コロボックルの村を追い出された俺にとってこの街は、第二の故郷になる場所だ。だったらコロボックルの村と同様に守るだけだ。



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