第18話 コウモリの翼を持つ魔物

 学院に戻る馬車は、青狼騎士団の騎士団長が手配してくれた。身なりも、騎士団で働いている女の人が髪型を整えてくれて、団長から「そのコートはライオット君にあげるよ」と言われ受け取った青狼騎士団の青いコートを着て出発した。


 レティシアが「ぶぅ〜、私服とボサボサ髪でいいのに」とぼやいていたが。



「久しぶりにクローディア様に会うね」


「団長はそうかもしれませんね」



 団長と副団長も馬車に乗っていた。ちなみに団長から貰った黒い大剣は、別の馬が引く荷馬車に括られている。重すぎて馬車には乗らないそうだ。



「クローディア様って誰だ?」


「ライ、理事長よ。団長はなぜ理事長に会いに行くのですか?」


「レティシア、あなたクローディア様の事を知らないの?」


「「…………?」」


 

 俺も知らないが、ただ者ではない事は分かる。



「クローディア様は三代前の白狼騎士団の団長だった人よ」


「理事長が!?」



 おお、理事長お婆さん凄いな! 普段からは強さを感じさせない、それでいてただ者ではないあの気配。やはりただ者ではなかった。俺はあの域まで辿り着く事が出来るのだろか。





「だ、団長! 街から煙が上がっています!」



 馬車が止まり、御者台の騎士からの声に促されて、俺たちは馬車を降りた。


 街まではまだ少し距離がある。緑の草原からは、街の外壁が小さく見える。


 そして煙と砂塵が混ざった煙が街の中に見えた。



「あの煙は火事ではないな」



 火事であれば、あれほど砂塵は混ざらない。


 どれ。


 俺は百倍以上の脚力で天高く跳躍する。そして、百倍以上の視力が見たのものは、帝都学院の空を覆い尽くす、沢山のコウモリの翼を持つ黒い魔物だった。


 着地した俺は、俺が見た状況を団長たちに伝えた。



「コウモリの翼を持つ魔物……だと。大きさは?」


「人族と同じ背のヤツと、小鬼ぐらいのヤツだな。小さい方が沢山いたぞ」


「だ、団長、それって」


「ああ、悪魔族だな。小さいのはインプ、もう一つはレッサーデーモンあたりだろう」


「あ、悪魔族!? なんで悪魔族が学院に!」



 レティシアが悲痛な声をあげた。



「悪魔族とはなんだ?」


「ま、魔族よ! 魔族ッ!!」


「魔族? 強いのか?」



 俺の問に答えたのは団長だった。



「インプの強さはたいした事はないが、催眠の魔法を使うのが厄介だね。レッサーデーモンは災害Aクラスの魔物だ。騎士級でも一対一は厳しいね。エステルちゃん、今あの街に配属されている白狼騎士団はどの部隊かな」


「古代迷宮の警備には第二騎士団が配属されています。部隊長は白狼騎士団副団長のアルディバランです」


「……アルディ君か。彼なら多少は時間が稼げるか。僕らも急ごう。白狼騎士団はともかく、侯爵の私兵では厳しいだろう」


 そう言って団長は馬車の階段に足をかけた。


「俺は走って行こう。その方が早く着く」


「……馬車よりもかい? いや、そうだね。ライオット君の脚力はさっきの跳躍で確認済みだ。人が魔法もスキルも無しに、あんなに高く跳ぶところを、僕は初めて見たよ」



 団長の了解を得た俺は、荷馬車からホルダーごと積まれた黒い大剣を取り、背中に背負う。


「ライオット君、私も連れていって貰えないかしら」



 そう言ってきたのはエステルさんだった。

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