第12話 どうやったら光るのですか?
「二人とも座って」
やたらと豪華なソファーに俺とレティシアが腰掛ける。帝都に入った俺達はレティシアのお姉さんが所属する青狼騎士団の建物へと来ていた。
レティシアのお姉さんは青い鎧から白いシャツと青いコートに着替えていた。
「しかし、レティシアの友達は強いな。いや強すぎだな!」
「ライはちょっと異常なのよ」
「ライねぇ……。レティシアの彼氏?」
「ち、ちちち違うわよ!」
「彼氏って何だ?」
「いいの! ライはまだ知らなくて!」
「そうか。それで、この菓子は食べてもいいのか?」
テーブルの上には美味しそうな色々な菓子がバスケットに入って置かれていた。「どうぞ」とレティシアのお姉さんが許可してくれたので、俺は遠慮なく食べた。美味い! すこぶる美味いな!
「ねぇ、ライオット君は何であんなに強いの?」
レティシアのお姉さんが聞いてくるが、
「強いのか?」
「強いわよッ! ドラゴン倒せる人、普通にいないから!」
「そうか」
確かに俺の村でも飛び蜥蜴を倒せたのは俺だけだった。
「レティシア、ライオット君は白狼武闘会に出るために帝都に来たのよね?」
「うん、そうだ……そうです、お姉様」
「クス、相変わらず、あたし言葉が抜けないみたいね」
「う、うん……」
「いいわよ、私の前ではあたし言葉で」
「あ、ありがとう、お姉ちゃん」
「ライオット君はなぜ、白狼武闘会に出場するの?」
「何でだ?」
「ダンジョン! ダンジョンに入る為でしょ!」
「そうだったな」
「お姉ちゃん、ライはあたしとダンジョンに入る資格を貰う為に白狼武闘会に出場するの」
「えっ? 何で? だって学生は――」
「ヤッホー、エステルちゃん、元気ぃぃぃ」
「――――だ、団長!」
部屋に背の高い痩せた男が入ってきた。長い金髪を後ろで束ねた細面の優男。レティシアのお姉さんと同じく白いシャツに青いコートを着ている。
「だ、団長! 元気ぃじゃないです! ドラゴンが来たんですよ! しかも二匹目はマザードラゴンだったんですよ!」
「うん、話しは聞いたよ、って言うか見てた」
「ど、何処で見てたんですか!」
「な、い、しょ」
片目を
「で、エステルちゃん、ドラゴンを倒したのは残念ながら我が青狼騎士団じゃないよね?」
「は、はい! 妹の友達で、こちらのライオット君が二匹のドラゴンを討伐しました!」
優男はニコニコとした笑顔で俺を見るが、その気配は正に凶暴な青狼だ。この男、ヤバい程に強い!
「へぇ、へぇ、へぇ! 凄いな君。僕でもマザードラゴンは厳しいよ! どんだけ強いの?」
「強いかは分からない」
「ふ〜〜〜〜〜〜ん」
「あ、あの~」
「んと、君は?」
「団長、この子は私の妹のレティシアです」
「へぇ、エステルちゃんの妹かぁ。お姉ちゃんと一緒で可愛いね」
爽やかな笑顔で白い歯がキランと光った。どうやったら歯が光るのだろうか?
レティシアが、俺が武闘会に出る理由を団長に伝えてくれた。
「なるほど。白狼武闘会かぁ。うん、キャンセルだな」
「あ、あの、キャンセルってどういう事ですか?」
レティシアが団長に聞いてくれた。
「あ~、ライオット君が白狼武闘会に出たら間違いない優勝する。それはそれで不味いし、まぁ、今回の件で皇帝陛下から勲章くらいは貰えるはずだよ。勲章が有れば何処のダンジョンにだって入れる資格になるから、白狼武闘会には出なくても大丈夫なんだ」
「そうか。それでキャンセルって何だ?」
三人が俺を見ている。俺はまた何か変なことを言ったのだろうか?
「アハ。アハハハハ、君、面白いね。僕も君の力を見たくなったよ。一手やってみようか」
◆
青狼騎士団の敷地内には教練場という広い広場があった。俺は団長と一手合わせる為に教練場に来ていた。
「レティシア、貴女がどれ程の力を付けたか楽しみだわ」
「な、何であたしが……」
教練場の広場にはレティシアとエステルさんが剣を持って向かいあっている。そして何故かレティシアは涙目だ?
「さあ、来なさい」
「う、う、うわぁぁぁぁーーーーッ!」
レティシアが剣を振りかぶり上段から剣を振り下ろす。それは軽くいなされ、更にレティシアが連続で剣を振るが、全てを余裕で裁かれていた。
レティシアの良い所が全く出ていないな。
「レティシア!」
俺はレティシアを呼び幾つか助言をした。再びエステルさんと対峙するが、先程のような大振りで切り込まずに剣を正眼に構え、円を描くように間合いをとる。
徐々に間合いを詰めて、殺気を込めた一歩を踏み込む。しかし斬り掛からずに一歩引く。レティシアはそれを何度か繰り返した。
「わ、分かったわライ!」
レティシアの良さは目と反応速度だ。相手を良く見ていれば活路も生まれるだろう。
レティシアは本気で踏み込みエステルさんと剣を交わす。しかし先程とは違いレティシアが先手を取れていた。
「え、ちょ、何で!」
エステルさんが後手に回り焦りが見え始めた。レティシアは目がいい。僅かなエステルさんの剣の癖を見極め剣を押し、剣を引き、エステルさんを翻弄していた。
「「ありがとうございました」」
レティシアは終始押していたが、流石は青狼騎士団の騎士エステルさんだ。レティシアはその防御力を突破する事なく手合せは終わった。
「レティシア、ライオット君に何を言われたの!? 彼の助言の後はまるで別人のようだったわ!」
「お姉ちゃんは剣を振る寸前に右肘が少し上がるから、それを見て剣を押すか引くかやってみろって」
「え、そんな癖が有るの? 私に!?」
「うん。ホンの少しだけど。でもあんなのライじゃないと気付かないよ」
姉妹の手合わせが終わり、俺と団長が広場に立つ。
「ライオット君は目もいいんだね。エステルちゃんの癖を初見で見極めるとは流石だよ」
「そうか?」
団長は銀色の不思議な輝きを持つ剣を持っていた。村のオババが世の中には魔法の剣が有ると言っていたが、アレがそうなのだろうか?
「さあ、やろうか」
「ああ」
まあいい。俺は俺の一撃を打つだけだ。
団長には一分の隙も無い。凄いな。
俺はワンステップで踏み込み剣を振り下ろす。
キーーーーーーーーーンッ!
折れたか。俺が剣を振り下ろし、団長が銀色の剣で俺の剣を受けた。俺の持つ子鬼の剣は半ばで折れて宙を舞っている。これで手合いは終わった。
「俺の負けだな」
折れた剣を鞘に戻しレティシアの方へと歩き広場を後にする。
「ライ……」
「なぜ泣いている?」
何故かレティシアが泣いていた?
「だ、だってライが負けちゃった……」
「相手は青狼騎士団の団長だ。負けて当たり前だろ」
「そ、そうだけど……」
俺は泣いているレティシアの頭に手を乗せ優しく撫でた。
◆
「二人は?」
「はい。今夜は来賓室に宿泊させます」
「うん。それがいいね」
「団長、あの少年はどうでしたか?」
「化け物だね。踏み込みの速度は、めっちゃ早かった。よく受けられたと、自分を褒めちゃうね。そんで、戦場なら僕は死んでいたかな。彼の一撃で僕は痺れて動けなくなっていた。折れた剣でも僕の首は斬り落とせるからね」
「…………」
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