第6話 個人授業?《Side レティシア》
あ〜ムカムカする!
理事長に呼ばれて理事長室に行った私は昨夜のオークの件で理事長に色々と聞かれた。せっかく今からライの部屋に行って、ライと勉強会なのに気分は最低だった。
原因はステームだ。学校の噂ではアイツがオークを五十匹倒した事になっている。
救援のため山に登った兵士や冒険者達が倒れたオークの耳を取っているステームを発見した。事もあろうにアイツは自分一人で倒したと言ったみたいだ。
ゼッッッッッッッッッッッんぜん違う! 倒したのはライだ! それをアイツは自分の手柄にした!
ポイズンジャイアントトードだってライが倒したんだよ! ライが私を助けてくれたのに……。悔しい……悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいぃぃぃぃぃぃッ!
「ステェェェムッ! テメえゼッッてえブッ殺ぉす!」
「何だ? 大きな声をあげて?」
物置小屋の扉を開けて、ライが首を出した。気が付けば私はライの部屋が有る物置小屋の前で叫んでいた……。
◆
は、恥ずかしい……。
初めて上がる男の子の部屋。しかもライの部屋……。なのに私は行きなりやらかしてしまった……。
「学校で何かあったのか?」
殺風景でベッドだけしか無いライの部屋。私達はベッドに並んで座っていた。な、なんか、こ、こ、恋人同士ぽくない?
「う、うん……。ステームが、ステームっていう男子がライの手柄を奪ったの! なんかもう許せなくて!」
「そうなのか?」
「そうなのかじゃないわよ! そうなのよ!」
「そうか」
はぁ~。ライは何でこんなに無頓着なんだろう。怒ってもいい所なのに、『そうか』で終わらせてしまう。もう~! 怒っている私がバカみたいじゃない!
「ライは凄い事をやったのよ! それをステームがかっさらって行って平気なの! 名声とか報酬とか全部ステームが持って行っちゃうのよ!」
「名声? 報酬? 何だソレは?」
「……」
……ライは無頓着かもしれないけど、それ以上に世間知らずなのかも。
「はぁ〜。もういいわ、勉強しましょう」
私は諦めてライの勉強、文字を教えてあげる為にバックからノートとペンを取り出す。あれ?
ライの部屋は殺風景でベッドしか無い……。
「どうした?」
「机も椅子も無いから……」
「困るのか?」
「ま、まあいいわ」
私はベッドに座ったまま膝の上にノートをおいて『りんご』と大きく書いた。隣に座るライがノートを覗く……。ち、近い……。
「大丈夫か? 顔が赤いぞ?」
「だ、大丈夫よ。これが『りんご』って文字よ」
「なるほど」
私達はベッドに二人並んで勉強を続けた。
「ねぇライ、ちょっといい?」
私はそう言ってライのボサボサの前髪を上に上げた。……やっぱりライの顔はカッコいい!
「前髪が邪魔じゃない? 切らないの?」
「前髪を切ると大変な事になると、理事長のお婆さんが言っていたぞ」
「あっ!」
うん! 確かに大変な事になる。女の子達が!
「そ、そっか。じゃあ、ま、いっか」
ライの顔を知っているのは生徒では私だけだ。エヘヘ~。
「フフフ」
「どうした、笑ったりして?」
「な、な、何でも無いわよ!」
「そうか」
一時間ほど勉強をして今日は終わりにした。寮の食事の時間もあり、私は帰り支度をしていた。楽しかった~。
「送って行こう」
ライは剣を腰に付けている?
「日が暮れると猪や魔物が出るからな」
「……出ないよ?」
「出ないのか?」
「で、出ないわよ! ここは街中だし、学校だし」
「そうなのか?」
「そうよ……。で、でも送って貰おうかな~」
「よし、なら行くとしよう」
や、やった~~~。
◆
日暮れの学校。寮までの道をライと二人並んで歩く。か、か、カップルっぽくない?
「「レティシア様、ごきげんよう」」
「ごきげんよう」
すれ違う女の子達と挨拶を交わす。すれ違い、距離が離れた所から女の子達の会話が耳に入る。
(レティシア様ったら、何で美化職員と?)
(お手伝いかしら?)
ライと一緒にいる所を見られて嬉し恥ずかしい気持ちになる。でも噂話しとかで広まったら不味いのかな? でも嬉しいような。
「どうした? 考え事か?」
「え、あ、違うの……そうそう友達の事で!」
は、恥ずかしい~。やっぱりライと噂になったら恥ずかしいかも~。
「友達がどうかしたのか?」
私は慌てて友達との悩み事っぽくごまかしてしまった。でも本当に友達の事で悩み事がある。
「うん。友達がステームと……」
私は友達のセレナの事を話した。セレナは部屋に置いてあった学費を盗まれてしまった。
セレナの家は小さな商店で、彼女の両親は学費を工面するのに苦労していると聞いている。そんな大切なお金を盗まれてしまった。
そんな彼女に付け入ったのがステームだ。伯爵家の息子で勉強も剣術も上位の成績で生徒や先生達の覚えもいい。
しかし彼には裏の顔がある。お金と権力を傘にかけ今の地位を作ったとも言われている。
それを知らなかったセレナは彼の誘いに乗り、彼からお金を借りてしまった。そして彼女はステームから何やら言い寄られている……と私は思っている。
「なるほど。そのステームという男は校舎裏でよく見掛けるぞ。先日も女の子と話しをしていたな」
「な、何を話していたの!」
「初めの時は女の子に告白していたな。『奴隷になってくれ』と言っていた」
「それ告白じゃないからッッッ!」
「違うのか?」
「全然違うよォ! 告白って言うのは、好きです! 付き合って下さいって言うのよ」
ダ、ダメだ。ライは本当に世間知らず過ぎるよ。まさか『奴隷になれ』が愛の告白だと思ってしまうとは……。
「好きです! 付き合って下さい!」
「え?」
ラ、ライがいきなり私に告白!?
「こんな感じか?」
「…………」
「どうした?」
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!
「バカァァァァーーーーーーッ!」
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