第4話 帰宅《Side レティシア》

 野外教育は一日で中止になり、あたしは夜遅くに寮に帰って来た。


 美化職員の彼に抱きかかえられて山を降りると、麓に街の兵士や冒険者ギルドの冒険者パーティー、そして理事長や先生達が集まっていた。


 彼はあたしを理事長の元に預けると、また山に登ろうとして、先生達に止められていた。そして荷物を守れなかった事を理事長に謝っていた。本当に面白い人だ……。


 部屋のベッドに入り今日の事を思いだす。


 突然現れたオークの群れ。グループのみんなを逃がす為にあたしが戦い、逃げ遅れた。でも……だからあたしは彼に会えた……。


 何十匹というオークをまるで紙や布を斬るかのように倒していった。動きも速い。


 まるで風だ。


 私は彼の首に捕まり抱きかかえられながら全てを見た。


 今までに見た事も、感じた事もない風の速さで戦う彼。その腕前は公爵領である父の騎士団でも十本指に入ると思う。

 

 いえ、それ以上かもしれない。だって最後に倒した大きなオークはオークキングだ。オーガよりも凶悪とされるA級災害モンスター。一流冒険者パーティーで冴えも苦戦する魔物。


 大きな声で吼えるオークキング。仲間を殺され怒りの形相で私達を睨んだ。身の丈五m、通常のオークより遙かに大きな巨体で豪腕を振るう。当たれば即死を免れない巨撃を彼は恐れる事なく交わし、そして一刀で難なく斬り倒したのだから。


 彼はいったい何者? 有り得ない程に強いのに、何で美化職員をやっているの? 彼程の腕が有れば兵士でも、冒険者でもやっていける筈なのに……。


 そして時折風で舞い上がる彼の前髪。ボサボサで顔もよく見れなかった彼の顔は……物凄くカッコ良かった! 滅茶苦茶カッコ良かった!


 しかも、しかもよ! 私をポイズンジャイアントトードから助けてくれたのも彼だったのよ! 私はあの時に死んでいたはずだった……。一緒にいたお伴の人達は皆ポイズンジャイアントトードに喰われ、私も……。


 でも私は奇跡的に誰かに助け出された……。


 ステームがポイズンジャイアントトードを倒したと聞いた時はドキリとした。彼にもし助けられていたら何を言ってくるか分からない。友達のセレナも、今、彼に悩まされている。


 でも命の恩人ならば無碍にも出来ない。


 でもステームは私に何も言ってこなかった。ポイズンジャイアントトードの数も違う。でも場所は同じだった。


 結局はステームの嘘。私を助けてくれたのは美化職員の……名前……聞くの忘れてたよぉぉぉ。


 私は彼に二度も命を救われている。何かで恩を返したい……。


 明日、彼にあったらありがとうを伝えよう。そして名前もちゃんと聞こう。


 明日が楽しみ……。あれ? 疲れている筈なのに、心が火照って何だか寝れそうにないよ。


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