第2話 帝国学院で働く事になりました
俺は帝国学院と呼ばれる大きな建物で働く事になった。先日出会ったお婆さんは、この学院の理事長とかいう人だった。男手が足りないらしく、こんな俺を雇ってくれた。
俺はお婆さんに俺がコロボックルであり、人里に来た事情も話した。豪胆なお婆さんだが、流石に俺がコロボックルである事を話すと驚いていた。「その事は人に言うんじゃないよ」と言われたので、誰にも言わないでおこう。
美化職員室と呼ばれる小屋が俺の家になった。お婆さんは物置小屋と言っていたが、屋根がある家を貸して貰えたのは本当にありがたい。
服も用意して貰え、食事は学食とかいうものの余りものを貰える。学食の食事が非常に美味しい事にビックリした。
俺達コロボックルはドングリ等の木の実を食べていたが、学食なるモノは色々な食べ物があった。美味すぎる!
この仕事をして早三日。学院という物が少し分かってきた。学院には俺と同じくらいの若者が沢山いて、勉強なるモノをしているらしい。
通路には俺には読めない文字の張り紙が沢山ある。彼らはこれが読めるのだ。大したモノだ。
俺が通路を四つ足で雑巾掛けしているとフイに女の子が俺を蹴ってきた。なかなかに鋭くて速い。良い蹴りだ。躱すけど。
「変態! スカート覗き見したでしょ!」
「変態とは俺の事か? 先日は変質者と呼ばれたが?」
「な、な、な、何であんたみたいのが学院にいるのよ!」
肩辺りまで伸びた金髪の女の子。中々にいい蹴りをしていた。しかし丈の短い履物だからか、雑巾掛けをしていると白いパンツが見えてしまう。しかし見えたからどうだと言うのだろうか?
「先日からここで働く事になった」
「な……何であんたみたいのが……」
あ、いかんいかん。お婆さんからは学生とはお喋り禁止と言われていた。何やら問題が起きるらしい。
俺は会話を止めて雑巾掛けの続きをする為その場をさった。
「アイツ、このあたしの蹴りを交わした……」
◆
雑巾掛けを続けていると男の生徒達の会話が耳に入ってきた。
「ステーム様、ポイズンジャイアントトードをお一人で五匹も倒されたとか。学院内でだいぶ噂になっていますよ」
「ハハハ。たまたま馬車を襲われそうになったから退治しただけの事さ」
「流石は伯爵家のお世継ぎ。勉強だけではなく、剣の腕前も素晴らしい」
「よしてくれ、照れるではないか」
どうやら銀色の髪の男がポイズンジャイアントトードなるモノを一人で退治したらしい。一人で魔物と相対するのは勇気がいる。大したモノだ。
◆
その後は広い庭の草取りや荷物の片付け等で一日が終わった。夕方には理事長のお婆さんに呼ばれて理事長室とかいう部屋に行った。
「どうだい美化職員の仕事は」
「ああ、思っていた以上に楽しい仕事だ」
「そうかい、それなら良かった。しかしあんたの目も耳も隠れちまってるボサボサ髪、何とかならないかね」
お婆さんはそう言って俺のボサボサな前髪を持ち上げた。
「おやまぁ。……あんたはボサボサ髪の方が良さそうだね。変に整えると大変な事になりそうだよ」
「そうか。ボサボサでいいなら助かる。身支度は余り得意ではないのでな」
「まぁそれはいいとして、明日から野外教育で森の中でニ泊する授業がある。あんたも荷物持ちで行って貰うよ」
◆
明日の野外教育なるモノの説明を受けて退室した。
俺の美化職員室は校舎裏にある。校舎を出て美化職員室に戻る途中で校舎裏で恋を愛でる男女を見かけた。
俺の村でもたまに見かける事があった。俺は女の子と遊ぶより剣を取ったが、羨ましくもある。
「金の返済は今日迄だぞ」
「……す、すみません……」
「返せない時は分かっているよな」
「…………」
「分かっているよな。お前は俺の奴隷になるんだ」
チラッと見ると髪の毛の長い清楚な女の子と、昨日ポイズンジャイアントトードを倒したと言っていた銀髪の男だ。
「明日の野外教育は同じグループ、同じテントにしたからな。ククク、楽しい夜になりそうだな」
「…………」
学生達も明日の野外教育は楽しみのようだ。俺も頑張らなければな。
そして分かった事がある。人間の世界では女の子への告白は『奴隷になれ』というらしい。覚えておこう。
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