【完結】世間知らずの美化職員は無自覚に無双する 〜能力値100倍以上になる禁断の木の実を食べてしまった小人族のライオット。村を追い出されて帝国学院の美化職員として働く事になりました。

花咲一樹

第1話 コロボックルの勇者が人族の街に行きました

 まさかアレが禁断の実だとは思わなかった。聞いた事はあったが見た事も無い木の実だ。


 三百年に一度成るかもしれないという眉唾ものの幻の木の実。俺が食べてしまったとしても仕方ないと思うのだが、俺は村に住めなくなってしまった。




 それは今朝の事だった。俺はいつものように、小人族であるコロボックルの村の周囲に近付く動物や魔物を、時には追い払い、時には退治をしていた。


 腹を空かした俺はドングリの木に飛び乗り、落ちる手前の熟したドングリを見つけては食べていた時だ。



「金色の木の実?」



 不思議に思いながらも、俺は木の実を口の中に放りこんだ。


 これが俺の失敗だった。





 金色の木の実を食べた俺は人族と同じ大きさになってしまった。そしてみなぎる力が湧いてくる。


 しかし、さて困った。一先ず村に帰ってはみたものの、俺が帰ったら村は大パニック。何とか村長とオババに状況を説明する事が出来たのは幸いだった。


 オババの話しでは、俺が食べたのは禁断の木の実。三百年に一度成り、能力値が百倍以上になる代わりに、大きさも大ききなってしまうとか。だから、コロボックルは決して食べてはいけない禁断の木の実とされていた。


 このサイズになっては村には住めない。村長からは人族の里を目指すように言われたので、俺は人族の狩人が置き忘れた服と、小鬼を退治した時に手に入れた剣をぶら下げて、人族の住む里を目指した。





 新緑の木々が生い茂り、爽やかな風が吹く道を俺は鼻歌を交わせながら歩いていると前方には、俺の倍程度の大きさの三匹の蛙が道を塞いでいる。



「蛙か……、小さいな」



 この体で見ると蛙も小さく見える。コロボックルの里で見た頃は数百倍はあったからな。


 俺に気が付く素振りを見せずに急に三本の舌がヒュンと伸びて俺を捕食しようとする。


 剣を抜いて一閃。


 サクッと三本の舌を斬る。ついでに手前の蛙もサクッと軽く屠る。流石に大きくなった事で蛙は簡単にヤレル。


 コロボックルの小さな体では小さな剣しか触れなかったから苦労した時期もあった。まぁ、烈風剣を覚えてからはそうでもなかったが。



「……ふむ」



 切り裂いた蛙の腹からは数人の人族の死体が出てきた。消化途中の為に血塗れで衣服や肌が溶けて見るに耐えない。


 しかし、村で蛙に飲み込まれた村人を蛙の腹から助け出した事がある。もしかしたらと思い、残り二匹は腹を傷付けないようにサクッと軽く屠る。


 蛙の腹を捌く。腹の中の人々は殆んどが息絶えていたが若い女の子が一人だけ息があった。しかし服は溶けて、顔や胸、足など肌の至る処が蛙の消化液でタダレている。


 俺は布袋に入った外傷に効く液体の薬を女の子の肌にかける。流石はオババが作った薬だ。傷は見る見る間に消えていった。

 

 年の頃は俺と同じくらいか。綺麗な金色の長い髪は薬で回復したものの、衣服はボロボロになっていた。まぁ命が助かっただけ運が良いと思ってほしい。


 俺は気を失っている裸の女の子に俺の着ていた服を着せ、抱きかかえて人里を目指した。





「これが人里か……」



 初めて見る人族の里。石の塀で囲まれた大きな村。いや街というのか?


 街の入り口に二人の守衛がいた。俺は事情を話して守衛に女の子を引き渡した。



「おい、おまえ!? そのカッコで中に入るのか!」



 守衛が呼びかけてきたが、軽く手を上げ門をくぐる。村ではパンツ一枚で出歩く事等は珍しくもないからな。


 塀の中の家は石を積んで造られている。村ではフキの葉で囲った竪穴に住んでいた。小人のコロボックルは、今の俺の手のひらよりも小さい。成る程、人の大きさなら石の家が良いという事か。


 道には沢山の人族が歩いている。村にいた時には、極稀に人族の狩人を見かけるぐらいだった。とは言え俺達コロボックルが人族に見つかるようなヘマはしない。だから俺は村を出る事になってしまったのだが……。


 街の人々が俺をチラチラ見ている。しかも好意的では無い視線。俺がコロボックルだからか? しかし大きくなった俺は人族と変わらないと思うが……?



「なぁ、俺は何かおかしいか?」



 道を歩くおばさんに声を掛けるが、「ひい~」とか言って逃げてしまった? さて困ったぞと頭をポリポリかいていると背中から声をかけられた。



「あんたの身なりだよ。パンツ一丁に剣をぶら下げている男は、どう見ても変質者だよ。髪の毛もボサボサ、前髪で目元まで隠れてりゃ、怪しさしかあんたには無いよ!」



 振り向いた先には白髪のお婆さんがいた。



「そうか、俺は変質者だったのか。それで変質者ってなんだ?」


「あんたみたいなヤツの事だよ、バカたれが! さっさと服を着ないかい!」


「生憎と服が無いんだ」


「はあ~、だったら服を買いなさいよ」


「ん? 買うってなんだ?」


「お店で買うんだよ! お金も持ってないのかい!」


「お店ってなんだ? お金ってなんだ?」



 お婆さんが俺を怪訝な目で見るが、お店もお金も俺は聞いた事が無い。



「あんた、本気で言っているのかい?」


「ああ、勿論だ」


「……はぁ~、しかたないね~」



 


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