第13話

 私は早速ロボットを代わりに出社させることにした。ばれるかも知れないが、ばれたときはばれたとき考えようと思った。いつでも会社を辞めるつもりに気持ちは傾いていた。ロボットが出社すると周りからいつもより多くの社員が挨拶をしてくる声が聞こえた。

ロボットは机の上に持ってこられる書類を処理していった。私も一応目を通したが間違いはなかった。操作して周りを眺めると後ろで課長と係長が話しながらこちらを見ていた。やがて係長が来て「今日はいつもと感じが違うね」と言った。私は何も応えずにいると、「そうですか」とロボットが自動で応えた。すると係長が、

「あまり悪ふざけをしない方がいい」

と怒ったように言った。

 次の日ロボットを自宅に置いて私が出社した。少し色のついた眼鏡を着けてでた。私の席につくと、係長が私の前に出てきてじっと見ていた。私はムッとして席を立った。食堂にいると業務会議が今日の⒔時からあると女性社員が伝えてきた。私は議題を尋ねると、均等な仕事分担だそうですと言った。私はロボットの件だと思った。

 課長が話し出した。会議は最初から熱を持っていた、

「最近業務が忙しくなり定時で帰る人と仕事が終わらず残る人間がほぼ固定されてきた。承知の通り昨今は働き方改革で残業時間の短縮が言われてきている。だから今日からは終わらない仕事を分担して処理するようにしようと考える。誰もが均等に同じ時間に帰れるようにしよう。未処理ボックスをつくりみんなで手が空いたものから処理してくれ。特に最近は○○が頑張ってくれているから期待しているよ」

と、わざわざ私の名前が出された。幾人の人間が失笑した。誰かが質問した、

「何件処理したかは個人の業績としてカウントされないのですか?」

「確かにそのことも考えたが、書類によっては手間取るものをあるから簡単に評価することは難しい。今回は全員で書類処理してしまうことが目的だからその点は考慮しないことにする」

「しかしそれでは個人で業務に差が出て不公平感が生まれるのでは?」

「その気持ちは理解するが我々の働き方はあくまで時間制であることから、

年俸制等の個人能力重視契約ではない。だからみんなで定時に帰りましょう

というのが今回の主旨だ」

「頑張らない人間を頑張る人間が援助することになり、

 最終的には効率が悪いのでは?」

「早く帰らないといけないから、急いで仕事を終わらせることが大切であって、他の人の分まで仕事が増えることには納得がいかない」

「能力給については会社に今後検討して頂くことにする」

「給与にすぐに反映されなくても件数に関しては明確にカウントするとことが大切ではないかと思います」

「何度も言うように、簡単にカウントできない。書類の内容自体に濃淡がありそのことを言い出すと仲間同士に更に不公平感や嫌悪感が生まれる」

「では係長の方で仕事の分配を決めるのはどうか?」

 課長が妥協するようにそう言った。

「その方が仕事を均等に行える可能性がある」

 誰かが同意するように言った。また誰かが、

「係長、課長と決裁が上がっていく中で仕事の分配までも行うことは

 非常に難しくなる」

「決裁業務を課長だけにして仕事のマネージメント全般を係長が行って頂くと不公平はでにくいのではないか?係長なら相談もしやすい」

「○○はどう思うか?」

と課長が私を指名した、

「この話がどの様な経緯で始まったかは知りませんが、定時に帰りたい人間にとっては残業を約束させられたようで困ります」

「実際に○○は定時に帰っているが、これから仕事が

 増えると困るということかね?」

「はい均等に仕事を負担することが大切と思います」

「私はその意見には反対だ。仕事が速い人間は多くの仕事をして

もらわないと利益につながらない」

と課長が言った。私はムッとして次のように応えた、

「結果的に報酬が変わらないなら遅い人間に合わせることになり

 不公平感が渦巻くと思います」

 周りの社員から、

「○○は不公平感を持つということだね?」

「実際あなたが仕事が速い要因を是非教えてもらいたいね」

と意見が上がった。周りを見ると誰もが私の顔を見ていた。私は反論する気力がなくなってしまった。私は均等に仕事を分配する今までのやり方に賛成ですと言って、口を閉じた。

「仕事の進捗状況をみて、仕事を分配する方法にこれから変えることにする。

また問題が生じたら次回考えよう」

と課長がしめて会議が終わった。

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