第3話

 3カ月後に私はお金を掘り起こして銀行口座に入金した。自動預け払い機は私が土の中から持ってきたお金を受け付けてくれた。何台かの預け払い機を使った。最終的に記帳された数字が私を夢見心地にさせた。何かをしようとは特段考えてはいなかったが、おいしいものでも食べようと漠然と想い描いていた。今まで入れなかった高級なレストランにでも行こうと考えていた。家を買うことや、車を買うことなどを考えてはいなかった。しかし何に使おうか悩むことで、大金を持っていることを楽しむ気持ちはあった。急な出費を心配する必要が無くなり心に余裕ができたことは確かだった。        

 ある日曜日の昼間から職場に最寄りの駅近くにある居酒屋で飲んで、帰路方面の電車に乗ると、いつもは通り過ぎる駅で降りた。普段はしないことをしようと思い、その街を散歩することにした。心が弾んでいた。十年程前に入ったことのある焼き鳥屋がある通りを歩いていると、仕事ができるロボット作れますと看板を掲げた店を見つけた。冷やかしはご遠慮下さいと扉に紙が貼られていた。店の中には髪の乱れた眼鏡をかけた男性がいた。店主だった。私は中を見ていいですかと言って店主にお辞儀した。店主は「高いものしかないよ」と言って気乗りしないようにしていた。彼はいつもの冷やかし程度にしか考えてはいないようだった。私はまた一礼して中に入った。スタイルのいい女性ロボットのポップには性処理できますと書いてあった。私は店主に「大人のおもちゃですか」と聞いた。店主は「そんなこともできる」と言って、「学習させると身の回りのことはほとんど援助できるようになる」とも言った。私は「例えば」と聞くと、「家の中の掃除や料理、洗濯」と言った。私はなるほどと相槌を打つと「書類作成はできますか?」と尋ねた。店主は「定型の書類ならできる」と言った。私が日ごろ行っている業務は見積書の作成や一日の作業件数のデータ化、請求書の作成などであったから、そのことを店主に説明すると、「できる」と言い切った。私は少し興奮し始めた。私の仕事のアシスタントができないだろうかと考えだしたのだった。そのロボットの値段は幾らか尋ねると店主は高級車1台分くらいの値段を言った。店主は止めを刺すような言い方で言ったので諦めさせようとしている様だった。私は用意できる金額なので余計に興奮し始めた。店主に「作業ができることが確かめられたら、買います」と伝えた。店主は本当かどうか疑っていた。目の前の男にその金額が用意できるのか、信用していなかった。私は通帳の金額を見せようかと言うと、「そんなことはいらん」と言って、少しむっとした顔をしていた。来週また書類を持って現れることを伝えた。

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