我、月の教会で開かれる秘密儀式の謎と対峙し、祈る者を助けんとす

教会のしもべ編

第10話-① 悪役令嬢は教会に連れて行かれる




■王都アヴローラ グラハムシュアー大聖堂 マルティ大月(3月)3日 12:00


 お昼を告げる鐘の音が大きく聞こえた。教会の馬車を降りると、ふたりの司祭に挟まれるようにして、雪が溶けかけた石畳の上を歩かされた。閉じられた鉄柵の門の前で立ち止まると、私は目の前にある建物を見上げた。


 大きい……。


 澄み渡った青空を後ろに、大きな中央聖堂が天の上まで届くように立っていた。周りの大小さまざまな尖塔が、それにかぶる波頭のように見える。躍動するいくつもの彫刻たちが壁を彩り、塔の大きな窓がロマ川の青い水面を映していた。


 門が音を立てて開く。まだ聖堂を見ていたら司祭たちに引っ張られた。先を行く男が振り向くと、その表情とは裏腹の言葉を吐き出す。


 「早く歩いたほうがよいかと思いますが。あなたも鞭で打たれたくはないでしょう?」

 「感動していたのです」

 「ほう。信徒として、この偉大な大聖堂の価値を実感していただけるのはありがたいですが、私は嫌いなのですよ。あなたのような生き物が」

 「まだ生き物扱いされているのですね。月の導きがあなたにありますように」

 「黙れ、大淫婦」


 私へ鋭い声をあげると、その男の細い目がわずかに開く。


 「お前のようなあばずれなど、虫唾が走る。早いところ灰にして月へ送ってやりたい!」

 「そうなさればいいのに。このゲスが」


 怒り狂ったその男が、私の喉元をつかむ。力任せに締め上げる。

 慌てたほかの司祭達が、「司祭長やめてください」、「枢機卿にまた叱られます」、「ここで事を成してしまうと面倒です」と言いながら男を羽交い絞めにして、私から離れさせる。

 私は咳き込みながら、冷たい石畳の上に倒れ込んだ。




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次話は2022年12月8日19:00に公開!



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