第4話-終 悪役令嬢は助手の罪を否定する


 突然、黒いワイバーンが大きな羽を広げて、私の前に降下した。

 巻き上がる風の中、騎乗していたひとりの男が飛び降りる。


 「学園長……、なぜここへ」


 私の前に立つ王立魔法学園、学園長。

 細身の体にまとった黒い背広のような服が、ぱたぱたとはためいていた。

 その人は私を見ると、黒縁の大きなメガネを片手で覆って直す、見慣れたしぐさをした。


 「この争いは我が王立魔法学園が預かる」

 「え?」


 それを聞いた衛士長が慌てだした。


 「待て! そんなことはできないぞ」

 「我々には王家から学園の自治を任されている。これは先生と生徒、その所有物の問題である」

 「そんなでたらめが」


 私達の前にワイバーンたちが次々と降りてきた。


 「なら、一線やるかい?」と老女は豪快に笑う。

 「我が魔法学園の教師はみな北方の戦場育ちだ。お前らみたいに礼儀の良いお嬢ちゃんではないぞ」と屈強な戦士は言う。

 「さよう。年をとっても人相手になら瞬殺であろう」と白髭の老人が言う。


 私は茫然としてしまった。


 「先生たち……」


 魔法学園の先生達がたくさん来ている。

 どういうこと……。


 学園長が言う。


 「これは学園十傑裁判にかけるしかあるまい」


 学園十傑裁判……。

 お母さんも裁かれたあれを……。


 コーデリア先生がくすりと笑う。


 「ふふ、遅かったではないか」

 「最後まで悩んでいた。我らの不祥事にどう片を付けるべきかと」

 「不祥事、ね……」


 ユーリスのそばに、金髪をまとめ上げた女の先生が駆け寄る。


 「ユーリス・アステリス。あなたは被告として我々魔法学園が拘束します。いいですね?」


 うなずくユーリス。たまらず私は声を張り上げる。


 「ダメです! ハルマーン先生! ユーリスは何も!」


 先生にうながされるまま、ユーリスは連れていかれる。


 「ユーリス! あなたの罪は私の罪です! だから!」


 すぐに駆け寄ろうとした私の腕を誰かがつかんだ。

 振り向くと、イリーナがいた。


 「もう、こんなにして。私を抜きに面白いことをするからですわ」

 「イリーナ! ユーリスが!」

 「大丈夫です」

 「でもっ!」

 「聞き分けなさい、ファルラちゃん」


 イリーナが私の肩をつかんで、有無を言わせない表情で私を見つめる。


 「そう、大丈夫です。学園での幽閉の快適さは僕が保証します」

 「生徒会長まで……、なぜ……」


 先生たちが胸に手を当てる。


 「我、学園長。アドラス・グリュフォール」

 と、黒縁メガネを正しながら細身の男は言う。


 「我、教頭顧問。ディアドナ・ハルマーン」

 と、風に舞う乱れ髪を押さえながら、有能な女教師は言う。


 「我、武闘術筆頭。ゲルハルト・ミュラー」

 と、黒い狼と恐れられたその屈強な体をそのままに、その礼儀正しい男は言う。


 「我、軍略筆頭。マクビナス・ドーンハルト」

 と、謀略の天才として魔族を血祭りにあげてきた、その白髭の老賢者は言う。


 「我、占術筆頭。ドロリア・クリュオール」

 と、豪傑の魔女と言われたその人は、口を大きく開けて笑いながら、その老女は言う。


 「我、魔族学筆頭。サイラス・サイモン」

 と、こめかみの青筋を押さえながら神経質そうに、その大男は言う。


 「我、医術筆頭。ファウド・ゼルシュナー」

 と、鋭い眼光を光らせ白髪交じりの頭をさすりながら、その白衣の男は言う。


 「我、生徒自治筆頭。ミハエル・グリシャム」

 と、変わらず生真面目な学生は言う。


 「我、生徒筆頭。イリーナ・ユースフ」

 と、にっこり微笑んで、面白いものを探すように言う。


 「そして我、魔法学筆頭。エレノア・コーデリア」

 と、にんまりと笑いながらその人は言う。


 そして、叫ぶ。大きく高く。


 「「「「「我ら王立魔法学園十傑。汝に裁きを与える」」」」」



■王立魔法学園 賢者の小路 オクディオ大月(10月)15日 15:00


 いろいろな木々が赤や黄色の葉を落とし、蔦で埋もれた古めかしい校舎が寄り添うそんな小道の上を埋め尽くしていた。

 足先ですくうように落ち葉を蹴り上げる。はらはらと色づいた葉が落ちていく。


 「仕方がなかったんです」


 後ろでイリーナがそう申し訳なさそうに言った。

 それは、この2週間、ずっと聞かされていた言葉だった。


 「イリーナの言うことはわかります。あのまま行けば、あの4人には生命に関わる罰を与えられたでしょうから」

 「他に手がありませんでした。王家の方々は今は微妙な立場ですし。だから先生方に……」

 「それでもです。私とユーリスが離れることは許されません」


 イリーナがうつむく。そして、ぼそりとつぶやく。


 「ファルラちゃんはユーリスのことが大好きなのですね」

 「ええ」

 「隠さなくなりましたわね。もうすっかり」

 「なりふりかまっていられなくなった。ただ、それだけです」

 「面白いですわ。これからどうするのですか?」

 「もちろん、やることはひとつです」


 私は赤い落ち葉をひとつつまむと、息を吹きかけて、空へと飛ばした。


 「ユーリスの奪還です」



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作者が「木枯らしに吹かれて」を歌いながら喜びます!


次話からは学園裁判編が始まります。

悪役令嬢は異議ありとでも叫ぶのでしょうか。

ぜひよろしくお願いしますー。


次話は2022年10月12日19:00に公開!

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