第14話 百目

その内容を聞いた近衛は道場の外へと出ていった。

扉の外には制服自衛官が待機していた。

その自衛官は近衛に何事かを渡していた。

数分間の会話の後近衛は戻ってきた。腕には封筒を抱え込んでいる。

一同近衛に注目した。

「情報が入ってきました。先日の神父ですが、本日午後、新潟より出国致しました。」

「ロシアですか?」

川上が聞いた。

「その通りです。」

「それは何処からの情報ですか?」

「港の管理官からです。」

「百目からでも、内調でも、陸幕二部でもなく、ですか?」

「はい。事態は想像以上に深刻なようです。」

「正式なルートで堂々と出国か。

アメリカだけでなくロシアまで奴等の影響下に入っていると考えねばなりませんね。…」

腕組みをして鉄心が考え込んだ。

「ここに出国時の写真があります。」

抱えていた封筒から引き伸ばされた数枚の写真を取り出した。

ビデオカメラや監視カメラから隠し取られたと思われるアングルばかりであったが、川上は断言した。

「間違い無いですね。あの男です。

写真からでもあの男の発する気や気配は伝わります。それは戦った私が一番良く分かります。それに、服装は返られても頭部の傷は隠しようが無いですね。」

写真に小さく写った神父の頭部には白い包帯が巻かれていた。

「どうやら、敵は日本では修理が出来ないようですね。日本にはまだ拠点を持っていないということでしょう」

「ええ、どの諜報機関にもその情報は入ってきておりません。

現在神父には陸幕二部の者と百目の者が追跡しています。何か動きがあれば連絡が入る事になっております。」

「先生、話がまるで見えません。百目ってなんですか?陸幕二部?内調?」

黙って話を聞いていた剣介が声を上げた。

近衛が教えた。

「陸幕二部とは、陸上自衛隊内の、内調とは内閣の組織する、簡単に言えば諜報機関です。そして百目とは、剣介君、あなたがたと同じ特異な能力を持つ者で構成された諜報機関のことです。彼らは通常の諜報機関とは異なり、人の気を追跡したり、透しやテレパシーで連絡を取ります。平たく言えば、超能力者によるスパイ組織です。しかも法の都合上、非営利、非政府の民間組織です」

「そんなものが現実にあるのですか?」

「あるのです。過日の戦闘行動を見てもお分かりでしょう。みなさんの常識を超えた現実がこの日本にはありますし、また想像外の状況が始まろうとしているのです。

我が国も法の枠を超えて戦わねばならない時が迫っているのです。ですから我々の準備が整うまでの間、無茶とはわかっていても、剣介君、君たちの力が必要なのです」

「……」

剣介は何も答えなかった。

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