第6話 死に稽古 鉄丸


川上に礼をして道場の隅に下がりながら剣介は思った。

「ここまで遠いのか!」

性も根も尽き果てた事に加え、川上の実力に驚愕し、少なからずあった剣に対する自信と自負を徹底的に砕かれた事にショックを受けていた。

鉄丸は二刀を構え川上に対峙した。

川上の姿がいつもの稽古の時よりも遥かに大きく感じられる。

本来小柄で痩身、鉄丸の半分ほどの体重しかなく頭一つ小さい川上の姿を見あげている、そんな印象である。

鉄丸は川上から発せられる威圧感を骨の髄から感じ取っていた。それは先程の剣介の立ち会いを見てしまったからである。

自分と実力伯仲の剣介が手に負えない川上に、対応する策が見つけられないでいたのだ。

「鉄丸、臆していては本来の実力すら出す事は不可能。落着きなさい。」

鉄丸の心の内を察し川上が声をかけた。

その言葉で我を取り戻す鉄丸。

鼻から大きく息を吸い込み、攻撃の為の気迫をため込む。

「きえーっ!」

天にも響く気合であった。

ビリビリと空気がなった。

気迫だけであれば、川上を押しつぶす勢いであった。

その時の事であった。

突如爆音が鳴り響いた。

バリバリバリバリと夜のしじまを引き裂き、気迫と緊迫に包まれた道場の空気を切り裂いた。

「ヘリ?ヘリのローターの音か?」

その爆音は次第に道場近づいてきた。

「来たか!」

不意に川上がつぶやいた。

「鉄丸、稽古は中止します。」

「中止?中止ですか?」

「そうです、私はこれから出かけねばならないようです。」

ぶしつけにも、強力な光が窓を突き破って道場内を照らし出した。

その光とともに一人の男が入ってきた。

逆光ではっきりとは見えないが、筋肉質で長身の男である。

突如その男は川上に向かって、軍隊式の敬礼をした。

「陸上自衛隊特殊作戦室所属、近衛文貴一佐であります。川上閣下をお迎えに上がりました。」

「わかりました。参りましょう。」

川上は鉄丸と剣介を振り向き

「出かけます。戸締まりをしてから帰りなさい。」

その言葉の直後に自衛官の背後から声がかかった。

「川上先生、それには及びません。

良い機会です。鉄丸と剣介君、二人に敵の姿を見せておいても良い時期でしょう」

そう声をかけたのは丸々とした大きな男である。

「親父!なぜ?」

「鉄丸よ、事情は後で話す。今は何も言わず、川上先生についていきなさい。

そしてお前たちの人生の前に立ちふさがる大きな壁の姿をしっかり見極めなさい。

剣介君もだ。いいね?」

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