30ページ 《ジェシカの本領》
地面から生えるその手はしっかりと俺の足を掴んでいる。その力には俺ですら抵抗出来ないのではと感じさせる圧力があり、そして少しづつ、下へ下へ引きづり込まれていく気配がある。
血の雨が止む。
戦略上、戦場において兵士は数で捉えられる。そこに実力の有無は含まれず、実戦においては兵士個人は実力よりも運によって生き残る。実際俺が昔、殺していた人間の仲間には、俺の気まぐれや崖の倒壊の運の要素で生き残る人間も多数いたはずだ。………。
さっきヒル共の身体を巻き上げた回転する刃物のようなモノが、今は目の前の兵士を横薙ぎに散らしていく。
…けれど、こうして手の届く場所で、味方と呼べる存在が
「内装反転
歯噛みするほど悔しい感情が、俺を突き動かした。最初からこうしていれば、なにも、誰一人も犠牲にすることはなかったんじゃないか。そう思えた。そしてそれが出来るだけの力でもあったはずだ。
普段、日光を防ぐ為に皮下に仕込んでいる陰力の鎖帷子、それは動く度に形状変化を施す必要があり、その為には多くの陰力を使用していた。その内装を外装に転じさせると、変形させる必要のあまりない鎧にすることができ、変形させない分の陰力粒子がより広範囲の陰力操作に回すことが出来る。その範囲を
それだけ複雑な操作が必要になるが、より狡猾な攻撃が可能になる。
俺は足を掴んでいる何か、から脱するべく。内装反転による
そうしてグワッと現れたのは、病的に白い
「…ヒヒッ」
ソレは、すぐさま戦闘態勢に入った俺を甲高く嘲笑う。その時、俺は確かに戦闘態勢であった。構えていた、けれど、腕を鼻に持っていった。とっくの昔に臭気に慣れた俺ですら反射で動いてしまうほどの腐臭が鼻を着いた。そうしてから、隙を作ってしまったと気づく。首こそ腕の防御こそすれ胴体はがら空きだ。吸血鬼の肉体があれど未知数の敵に心臓を晒すべきではないと、戦闘経験が警鐘をあげる。
「鉄の処女 改!」
この状況の最善手、瞬間的で広範囲の創造によって俺の体を隠す為の目くらまし、防御と攻撃を両立させる弾幕のような攻撃。アイツから学んだ知識が生きてくれた。
旧大英帝国の遺産を鋭利に改良したそれは、白いソレを圧縮するように絞める。
「これで次だ」
さっきの兵士が気になるのだ。
振り向き様、右手にスローイングナイフを2本作り。横目で状況を確認してから振り向き、左腕を構える。
そこでは名も知らぬ兵士が帯状の吸血鬼に対して俊敏に剣を振るっていた。
「下がれ!!」
兵士たちに呼びかける。
「
いうよりも早く、俺は帯状の吸血鬼を1メートル四方の壁で囲む。兵士たちは無事だろうかという心配を頭の隅に起きながら、俺はナイフを投げる。
同時に帯状のソレを囲む壁には数百に及ぶ幾重もの銃口をむき出しに創り。
「
銀の弾丸よろしく
「……」
俺は、弾丸によって起こされた土煙を見つめながら、帯状のソレを殺れていることを、切望する…。
「殺れたか…」
その気持ちが声になる。けれど、明らかに手応えがなかった。
直後、俺は俺の全身から生えた腕によって拘束される。体中から無尽蔵に生えるソレら間違いなくさっきの腕だからけのソレのもので、コレは俺の油断や対策不足と、腕のソレが腕を操る原理は身動きが封じられても発揮される物だと言うことが分かる。
しかし、そう分析してる間にもその無尽蔵の腕は俺の四肢をもぎ千切ろうと怪力を発揮していた。
「ウソだろ」
余力はある。が、早くも俺の左腕の肩の皮は伸縮の限界を超えて反り返るように、既に弾き切れていた。それも、陰力性のプレートアーマーすら貫通して筋関節まてゴッソリという具合いに。これでもゴムの木ほどの弾性と密度があるというのに。
これは鍛えられた兵士でも全滅が間逃れない。だからこそ、俺がここで仕留めなければならないと思った。
そんな時、回転するソレが血の気の多い轟音を立て鋭利な刃先をむき出しにし、俺の首目掛けて飛んできた。
その時、あらゆる臭気を薙ぎ払うように、澄んだ木の香りが俺の鼻腔をくすぐった。
直後、濃い緑の影が11時30度の頭上から降ってきた。
「スカッ」
浅く鋭利な音を立てて地面に刺さる。その余波なのか、凄まじい風圧が俺の体を覆う無尽蔵の腕を余すことなく切り刻んだ。
その緑の影の正体には見覚えがあった。刃渡り20cmの…そう、ウルフのブーツナイフだ。
ブーツナイフは地面に刺さってそのまま渦高く強烈な竜巻を発生させた。その直後、見た事のある人影が竜巻の中を落下して来る。ウルフ…?
「うっざい!!」
その人影は落下速度に反比例して浅い着地音と共に開口一番で暴言を吐いていた。
ウルフだと思った人影は、白銀の長髪を纏っていた。ウルフは茶髪だったはずだ。
「失礼っ、私のことはシルフの呼んで!」
言うや否や、回転するソレを緑の残像を持ったマシェットナイフでいとも簡単に弾き飛ばした。
「この黒いの解いて邪魔!!」
そして恐ろしく手際が良い。けど口の悪さが目立っていた。
「丸いヤツのことか?」
「当たり前!!」
シルフと名乗った女は、怒鳴りながらもブーツナイフを俺に迫って来ていたボーンの腹に投げた。着弾したボーンは緑の風に煽られて螺旋を描きながら散り散りになった。
直後に、俺が指示されすぐさま創造解除した球体の中身、腕のソレを左腕のマシェットナイフで上から下へと真っ二つにする。
「刃のそいつは任せた!」
シルフは切りながら俺に、次の指示をすると。そこから更に、真っ二つにするのと誤差のタイミングで右手で持った幾ばくの数のブーツナイフを緑の影を纏わせ投げた。
俺は再び迫り来る回転するソレを二刀の大剣で迎える。シルフから視線を逸らす前には、12ほどのブーツナイフが腕のソレに刺さって散らして居るのが見えた。
俺は右の大剣で回転するソレを地に叩き落とすと、俺が地中を通して操る杭によって下から上に貫こうとする。が逢えなく貫通しなかった、代わりに左の大剣で薙ぎ払う。
俺はすぐ様、回転するソレの弾き飛んだ距離を詰める。真上を取り、そこから大剣を消して長い杭を2つ手で握り上方から豪快に突き刺す。
「馬鹿!」
シルフの声だ。
「そんなのどう見ても無機物だろ! 術者が居るんだよ手数が増える馬鹿野郎!!」
シルフはそう言って俺を怒鳴りつけるがすぐ様、陰力の檻の外にいた本体の術者らしき対象を見つけ檻の目を縫うように投げ、見事なナイフ捌きで仕留めてみせた。
「さっきから1人で背負い過ぎなんだよ後ろにはジェシカさんがいるんだぞ! しょいこむな!!」
そんな罵倒を受け、悔しいかな良い上司とはこういうものかと俺は呑気に考えていた。
「布のヤツは足止めしておいたぞ、今のうちだ」
言いながら、シルフはさっき投げたものと思わしきブーツナイフがひとりでに滑空して帰還するのを、ノールックで片手間に受け取り太もものホルダーにしまう。
「後退するぞ!」
シルフはそういうや否や、東門に向かって駆け出した。見れば他の兵士たちも後退を始めていた。
後退は早く完了した。地面には数え切れない量の地雷や罠があったが皆、疲弊しているとは思えない軽やかな動きで速やかな移動をし、地雷に関しては吸血鬼用というのもあって地表に露出していて避けての移動が比較的に容易だったのだ。
交代中、振り向くとさっき散り散りなったはずの腕のソレや何やらの残骸らが、微弱な動きを繰り返して集まろうとしているのが見えていた。
後退を終えると東門の
「……
ジェシカは変わった詠唱をしているようで。言いながらも左手を振り下ろした。
それはどうやら魔法の展開を意味しているのではなく、城壁の上に待機していた弓兵による火矢の発射を意味していた。
俺は城門の上から見下ろす。すると、走るヒルやボーンらが間近まで迫っていた。それらは地雷や
馬房策などの中にも火薬が仕込まれていたようで、
そして炎が次々と吸血鬼共の中で燃え広がり、また次々と爆発音が轟く中で、ジェシカは1人詠唱を続けていた。
「…
その言葉をキッカケに、ジェシカの頭上にある黄金色の魔法陣がひと回り小さくなる。
「
その言葉で、東門の遥か上方の暗闇の空に、黄金の魔法陣が作られる。
「
その合図では、砲詠陣と言う陣から、大きな鉄の丸い筒が出てきた。それだけではそれが何なのか、よく分からなかった。がしかし、その筒が胴体を顕にしていくことで理解できた。それは大砲の砲塔だった。砲塔は地上の吸血鬼共に砲口を向けていた。
「
砲塔はゆっくりと回転を始める。やがて激しさを増して目まぐるしく高速で回転する。それは見た目では回っているのか分からなくなるほどに回転を増していく。
「キィーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンン!!」
そして大気を切り裂くほどの風切り音を轟かせる。
ジェシカは再び左手を上げる。
「…諸行無常を完了せよ!!
そして手を―――振り下ろす。
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