7ページ 《幸せの営み》
俺は入国審査の検問の前に立つと、兵士がローラに駆け寄る。検問にかかっていた兵士は2人だった。
「ローラさん、今回はいつもと比べて随分とお早い帰還ですね!」
そう言った兵士は横目で俺を見て、手に持つ槍を握る力をわずかに強ばらせる。そんな様子を感じ取ったのか、もう1人も俺の存在を意識したようだった。
「失礼ですが、お連れの方とは珍しいですね」
兵士のその、ローラを呼ぶセリフには『さん』と敬称をつけていた。
見ると、その兵士は胸当てに
「確かにそうだな、いつもはもう70
よく気づいたな! と感心して見せるローラに対して「それはそうです、
「失礼ですが、この方は?」
そうやって兵士は顔をこちらに向けてローラに問う。
「まずは…」
ローラが口を開いたところを、俺が言葉を被せた。
「俺はティネスと言う、狩りをしながら旅をしている者だ」
「??」
俺がそう言うと、ローラは俺を見ながら小首を傾げる。
「そうなんですか、ローラさんの見込んだ方なので詮索したりはしません。ですが今し方少しだけ私の趣味に付き合ってくださらないでしょうか」
俺の言葉は信じてもらえなかったのかも知れない。当然と言ってしまえば当然の判断だと思った。寧ろ《むしろ》頭がキレると評価してもいいくらの判断だった。
「では第1問です」
当然と言う言葉を撤回しよう! 俺は内心でそう思った。が、ここで
次の瞬間には、紫の木靴と真っ白で細長い美脚が兵士の背後を通過する。しかしそんな美脚は、地面と平行になった状態で兵士と激突するのだった。
そして『ゴカンッッ!』『ダラッカラ、ガッシャンン!!!』そんな盛大な音を立てて、さっきまでローラと話していた兵士は倒された。
そして美脚は左足から、綺麗な所作を描いくように着地し、右足を左足の後ろへたたむ様に仕舞う。
そして美脚の持ち主は、東洋を感じさせるスリットの奥に見えるくっきりとしたクビレと豊満な胸を張って大口を開けた。
「話しは聞いてたよぉ!!!」
それは豪快な
「ティネスと言うらしいが、あんたウソをついたね?!」
良く通る声で大声をあげ、俺の顔に唾を散らかした。
そんな女のセリフを聞いて、一拍おいて俺は女の目を睨みながら、諦めを込めた
「俺は吸血鬼だ。ご名答でなくとも、
俺は坦々とした口調で言ったのだった。
「ハハハっ、そうかい吸血鬼かい。でもあんた、ファーストイメージって知ってるかい?」
女はまたも豪快で、声に笑いを含ませながら、俺を見下すことを言う。
「あんた、初対面で嘘をついたんだよ? ……信用を得られなくなったってコトだよ!」
わかるかい? と女は続けた。まるで
なるほど…憎めないところは、流石ローラの友人といったところだ。
俺は黙って、遥か頭上の…わずかに背後にある太陽を目で確認する。そして女の背後まで続く影に目配せをする。
そして
「なぁ〜〜んだ、ロードじゃないんだ。あんた、ローラが見込むだけはあるよ」
そう言いながら女は後ろに手を回して、俺の作った陰力の物質に後ろ手に手をかざす。
女がなぜ、そんなセリフを言うに至ったかというとおそらくは、不意打ちで女を殺せたものを敢えて試すような真似をしたことが、余裕であり強者の特権だと見抜いたのだろう。
「滅却せよ、
瞬間、俺の作った
「む……」
なにかを感じ取ったのか、女は後ろを振り返って陰力物質を確認する。
「なんや、危篤な能力やな……」
顔を正面に向けて、俺と顔を合わせた女は
「アタイの名前はジェシカ・ネアンよ、ジェシカと読んで」
そう言って女は、俺の前に左手を差し出す。握手を求めているようだった。
「ティネスだ、よろしく」
俺は迷いなく、ジェシカの手を取る。
「悪いね、アタイらもココの皆を守らないといけないんだ。立場上の失礼だから許して欲しい」
ジェシカはバツの悪そうな顔で言った。
「ジェシカが失礼なのはずっとでしょ!」
ローラが横から割って入る。話が決まったことを知ったからだろう。
「あはは、だね。でも、村のみんなの幸せを守るのが、アタイの営みだっつうことは、アタイの心臓やって知っとるから」
そう言って、ジェシカは照れたように笑う。
ここでローラが俺の前に躍り出る。
「やっと機会が巡ってきたよ〜私にも喋らせろ!」
そう言うローラは、不満を嘆きながら笑っている。
「え〜っと、コレがジェシカだ。ウチでは知恵と狂乱の魔女って呼ばれてる」
そうひと言。
「知名度ってのは有り難いことだけど、毎回思うが狂乱ってのは過大表現じゃないのか?」
今度はジェシカが不満を漏らす番だった。
「気にするな私公認だ」
ジェシカは苦い顔をした、そして今度は俺に八つ当たりの矛先が向かってきた。
「あんたさっきから静観気取ってるけど、最初の最初も初歩も初歩で、アンタは信頼関係を築くところからつまづいた。これは覚えておけよ」
その言葉は、八つ当たりのなり行きにして出てくるには鋭すぎるほど的を射ていたことを、俺は胸中で感じていた。
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