第49話 夢のあとさき

 お七夜の祝いをしてからしばらくして、海外から、ダンジョンに関するニュースが流れてきた。そのニュースによると、ダンジョンの第9層は共通で一つの惑星である可能性があり、地球人以外の異文明の遺跡を発見したというものである。

 ダンジョンの深層探索に力を入れていたのが、米国と英国であった。他の国は、第4層の森林地帯で探索を打ち切っていた。第1-4層だけでもダンジョン一つ当たりでは狭いものの、全てを合わせれば自国の国土の数倍の広さがあることから、日本をはじめとする多くの国は、現実に開発可能なのはそこまでと見切りをつけたのである。

 第1-3層が共通して温帯型の湿潤な気候で草原であったのに対して、第4層はダンジョンができた土地に応じた気候で多くの場合に森林地帯になっていた。第5層もダンジョンができた土地に応じた気候で多くの場合に森林地帯になっていたが、そこに生えている植物は未知の品種のものばかりであった。続く第6-8層は、生えている草の品種こそ未知の品種であったが、再び温帯型の湿潤な気候で草原になっていた。ダンジョンの第9層が存在するのかという探索が最近の探索目標になっていた。

 米国のチームと英国のチームは、同じような時期にダンジョン第9層に到達していた。そこで英国のチームが米国のチームの通信を傍受して、互いに通信をすることが出来たのである。1週間後に2つのチームは合流することが出来た。米国のチームと英国のチームでは共同で、ドローンによる地図作成を開始した。

 それらの二つのチームが合流する過程で、かつては舗装されていたであろう道路の跡や、鉄筋コンクリートや、レンガなどで建てられていたであろう建物の残骸の山が複数発見された。金属や樹脂、植物系や動物系の材料のものは既に風化して失われており、現在のところ発見できていない。都市の遺跡から離れたところに強い魔力を発する巨大な遮蔽された石棺が発見された。そこはチェルノブイリ原子力発電所の石棺を連想させる遺跡であった。文明が滅んでから最低でも数百年以上経っているように見える。

 想像力が逞しい学者による空想によれば、魔力を利用した高度に発達した文明があり、開発可能な惑星を見つけたらダンジョンを介して接続するような計画があったのではないかという説を提案していた。その計画自体は地球を発見したという形で成功したものの、計画を実行していた文明は何らかの事情で寿命を迎えて遥か昔に滅んでしまったのではないかという説明を展開していた。

 この発見を受けて、第5層以降についても探索を加速する動きが出てきた。ダンジョンの第9層が最終到達地点で惑星であるのであれば、自国の領土として一定の地域を確保したいという欲が出てきたためである。異文明の遺跡そのものを調査したいという欲求も当然発生していた。切実な問題として、猛威を奮うダンジョンを制御する方法があるのであれば、その技術を取得したいというものもある。


 6月2日日曜日大安吉日、我が家では、飯縄神社の上ツ宮である飯縄夫婦神社に初宮参りをしていた。緑が正人をだき、母の志保が義人を抱き、幸恵が雅恵を抱き、緑の母である美保さんが操恵を抱き、福恵が智恵を抱き、幸恵と福恵の母である静恵さんが百恵を抱いていた。俺は、あの『成人の儀』の時と同じくそれぞれの祠に神饌を捧げた。見栄えがいいという理由もあって『身体防御』のスキルオーブも転がらないように台に置いたうえで1柱に1個づつ三方において捧げた。俺の子を抱いた女性陣とともに岩屋に入ると、『天の御柱』の周囲に立った。『修祓の儀』が始まり、悠人さんの祝詞が岩屋に木霊し、子供たちの幸せな将来を祈願した。思えば、この子らが生まれるきっかけになったのは、『成人の儀』であった。祓いが終わるとともにスキルオーブが白く輝いて消えていった。


 ナインと名付けられた惑星が見つかってから16年の年月が流れた。現在では日本の地上の人口は2千万人にまで減少した。地球温暖化の危機なんてものはもう過去のものだ。ダンジョンによる危険がないからと移住する人が多かったのと、ダンジョン内でのベビーブームもあって、ダンジョンの中やナインで暮らしている人口の方が大半を占めるようになっていた。

 この16年の間に高校を卒業し、大学を卒業して神職の資格を得た。スキルの影響で、俺と緑、幸恵、福恵の容姿は高校生だったあの頃から何も変わっていない。一家10人に、俺の妹の智保(ちほ)、緑の妹の青葉(あおば)、幸恵と福恵の双子の妹である英恵(はなえ)と晴恵(はるえ)の4人と、小緑、小薄、萱が人化した3人を合わせて17人で一緒にいると高校生の兄弟姉妹がいる様にしか見えないと、彰人さんと悠人さんにはよく言われる。一つ家で一緒に住んでいることもあって、実際に兄弟姉妹であるようなところがある。それなりに苦労はしたが、大所帯を支える大黒柱としてなんとかやっていけている。

 

 今日、5月5日は、俺と緑、俺の子供たちの誕生日だ。夕方には親族を集めてパーティーをする予定だ。誕生日プレゼントのつもりなのか、未明に緑、幸恵、福恵が夜這いに来ていて、久しぶりに抱いて愛を確かめ合ってから、二度寝をした。もっとも、もうすぐ朝のお勤めのために起きなければならないが、誰か分からないが好きな女性を抱き枕に寝るのはいいものだ。

 うとうとしていると、緑と幸恵と福恵の怒号が聞こえてきた。

「この泥棒猫ども出てきなさい。」

「青葉、英恵、晴恵、私たちの夫を寝取ってただで済むと思っていないでしょうね。」

「智保、あなたも実の兄を相手に何をやっているの。」

「お兄様は私のだもの……」

「おはよう。あれ?緑、幸恵、福恵、今朝はあんなにサービスしたのに何で怒っているんだい?えっ、3人がそこにいるとなると、この娘は誰?」

「直人、いくら久しぶりだからって、いくら寝惚けていたからって、妹たちと私たちをどうやったら間違えるのかしらね。あなたが私達だと思ってサービスしたのは青葉、英恵、晴恵の3人で、現在抱き付いているのは智保ちゃんよ。」

「はあ?あれ?本当に青葉と英恵と晴恵が俺の中に逃げ込んでいる。どうしてこうなった。」

「それは、私たちと間違えて、あの子たちをあなたが抱いたからでしょう。で、姉たちが怖くてあなたの中に逃げ込んでいると。」

「出てこないなら、こっちから乗り込んでいくからね。あなた、汚れたシーツは自分で洗っておいてください。」

 そう言うと、緑と幸恵と福恵の3人の姿が消えた。俺の中で6人が痴話喧嘩している……勘弁してほしい。

「お兄様、お兄様の誕生日に私の初めてを捧げられて嬉しい。ちなみに危険日の真ん中だからね。青葉と英恵と晴恵も周期が同じだから危険日だったと思う。責任取ってくれるよね?」

 そういうと、キスをしてから俺の中に入って、痴話喧嘩に参加した。

 自分の娘のように世話をして大事にしてきた4人が、どうしてこうなった。俺が鈍感過ぎたのか?


 見上げると、4人の娘たちが膨れっ面で、俺を睨んでいる。

「青葉、英恵、晴恵、智保の卑怯者。抜け駆けなんかして。私達だってお父様のこと好きなのに。」

「雅恵、操恵、智恵、百恵、俺を放せ。服を脱ぐな。」


 ……こんなハーレムは嫌だ。俺は、愛情の注ぎ方を間違えてしまったらしい。


(完)

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コンビニ帰りにダンジョンの出現に巻き込まれて 舞夢宜人 @MyTime1969

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