第27話 炎の文化祭

 10月6日金曜日、いよいよ、文化祭が開幕した。本日は校内向けの内覧日である。明日の2日目が一般公開日となっている。

 映画同好会の元会長で、もうすぐ任期が終わる生徒会長の塚田洋二先輩は、映画同好会のカメラマンを連れて記録映像を撮影していたし、生徒副会長の星野竜彦は本部待機兼生徒会による学校紹介企画の現場管理をしていた。書記の太田裕子先輩と会計の佐川博美先輩は、来賓受付対応をしていた。俺と緑は、校内を一緒に見て歩いていたのだが、頻繁に塚田先輩や星野先輩に呼び出されて雑用を命じられていた。本当は、他の同好会のメンバーと交代で、コンテンツ同好会連合の同人誌コーナーの方の仕事もあったのだが、文芸同好会の高橋留美と戸塚洋子が漫画同好会の工藤弘六と倉田純一とともに4人で交代でやるというので、お役御免になっていた。俺と緑を文化祭当日も生徒会の雑用係として使うという調整が行われていたようだ。

 16時40分、あと20分ほどで本日の行事が終わる時刻になった。あと1時間ほどで日没なので日もだいぶ傾いている。俺と緑は、生徒会長が率いる撮影部隊の手伝いで野球部主催のイベントの表彰式を取材していた。運動部の多くは、一般公開日に近隣の高校を招待して練習試合を予定しているところが多いので、レクリエーション的なイベント企画は初日のみとなる。

 表彰式が終わって解散という時になって、小緑が俺たちに警告を送ってきた。

 グラウンドの中央に何かが出現していた。よく見ると、横に4個、縦に4列、高さ4層で積み重なって宝箱が出現していた。横に8個、縦に8列に配置が組み変わると、宝箱が一斉に開いて、モンスターが中から出てきた。最初に列ごとに1体のリビングメイルと7匹の大鼠が現れ、その後から各宝箱から2匹の毛玉が現れた。総勢192匹の大群である。

 生徒会長は、表彰式のために持っていた拡声器を使って、同じグランドで陸上部やサッカー部のイベントに参加していた生徒に校舎の方に逃げるように指示した。

 俺は、緑に意思を確認すると、モンスターを撃退することにした。この程度の集団はダンジョンで何度か撃退していたたからである。

 俺たちは、魔力を循環させ体を強化した。急いでいたこともあって余剰魔力で体が光り出した。具足樹のプロテクターなどの装備を召喚すると、各装備が装備されるべき場所に現れて装備されていく。俺の左手に『盾樹のラウンドバックラー』が現れ、右手には『刀樹の木刀』が現れた。同様に緑の左手に『盾樹のタワーシールド』が現れ、右手には『刀樹の木刀』が現れた。

 二人でモンスターを威嚇しつつ、小緑を呼び出した。小緑は緑の陰から本来の黒犬の姿で出現した。最近獲得したのか、具足樹のプロテクターを装備していた。俺が小緑に指示すると、遠吠えをして、自分の陰から体高60cm具体の大型犬サイズの黒犬の眷属を8匹呼び出した。眷属たちは、モンスターの群れを取り囲み、牧羊犬のようにその輪の外に出ないように誘導した。

 俺は小緑に大鼠の撃退を指示した。俺と緑は、毛玉や大鼠を牽制しつつ、ボスとなっているリビングメイルの撃退に集中することにした。邪魔者を魔力の刃を纏った『刀樹の木刀』で切り伏せつつ、リビングメイルに突撃、体勢を崩した隙にリビングメイルの脇に木刀を突き立てた。胴体を失ってバラバラになって転がったリビングメイルのパーツに止めを刺しつつ、次のリビングメイルに目をやった。

 2匹目を撃退したところで、緑から救援要請が入った。緑が毛玉に背中から襲われて体勢を崩したところを、3体のリビングメイルに取り囲まれてしまったようである。俺は魔力の刃を延長して進路上の邪魔な毛玉や大鼠を一気に薙ぎ払うと、リビングメイルを『盾樹のラウンドバックラー』で押しのけて、緑と背中を合わせて位置に立ち、リビングメイルと対峙した。そこに小緑の牽制が入り、囲みが緩んだ隙に俺と緑は反転攻勢に出た。

 リビングメイルを斃し終えた後、小緑に指示して囲みを狭めつつ、俺と緑は一度枠の外に出た。毛玉がボンボンと跳ねており、大鼠も数を減らしてはいたが残っていた。俺は、重力を伴った威圧をかけた。それにより、残っていた毛玉と大鼠は地面に縫い付けられて動きを止めた。


 俺と緑と小緑で三方から群れを囲むように展開した。夢空間で試していた戦法で一気に殲滅することにする。

「Set」

 腕を前に伸ばして合図すると、小緑の眷属がモンスターの群れを囲む円周上に魔石を設置した。

「Contain」

 腕を横に開いて合図すると、結界が起動し、地面には八芒星が浮かび上がった。

「Decompression」

 上に建てた親指を下に向けて合図すると、結界内の魔力が吸引され、魔力が減圧されていく。

「Ready」

 三方から圧縮された空気の奔流が結界内に流れ込み、徐々に渦が発生していく。

「Fire」

 圧縮した空気を加熱し、さらに励起させ、電離させ、プラズマの奔流として注ぎ込んだ。それと同時に渦は竜巻と化し、高さ50mもの火災旋風に発達して吹き上がり、モンスターと宝箱の残骸を数分間かけて焼き尽くしていった。

「Extinguish」

 火災旋風が去った後には、魔石とオーブがいくつか残っているだけだった。


 モンスターを殲滅できたことを確認した俺は、緑とハイタッチを交わした後、抱きしめて合った。魔石とオーブを回収して来た小緑が、褒めろと要求してきたので、俺と緑の二人係で撫でて褒めてやった。それに満足すると緑の陰に戻っていった。俺と緑は装備を収納すると、夕日を背に校舎に戻っていった。


 派手に火災旋風を発生させたこともあって、当然のように消防や警察が呼ばれる騒ぎになった。俺と緑は、事情聴取された後、職員室で危険なことをするなと、保護者で教師でもある緑の両親と俺の母に叱責を受けた。俺たちの両親は事前情報を知っていたけれども、他の教師の手前もあって、あえて厳しく対応したのであろう。俺たちに言わせれば、あの程度の大群には何十回と襲撃されているので、それらを壊滅できないようでは、とてもではないがダンジョンの第2層や第3層から脱出して、ここに生き残ってはいないのであるが、平和な生活をしてきた人たちには理解できなかったようだ。現実問題として飯縄市だけでもダンジョンに捕獲されて何千人も死亡しているのだが、理解したくないことは理解できないものである。1000人以上の生徒に一人も被害が出なかっただけで俺たちは十分満足なのだ。


 俺たちが職員室で正座させられて針の筵を味わっている裏で、歓喜している集団がいた。生徒会長の塚田先輩を筆頭にする映画同好会のメンバーである。彼らは今回の騒動を最初から最後までビデオカメラに撮影していた。騒ぎを知って途中から様々なアングルから撮影された動画データもあった。


 一つのグループは新聞部を巻き込んで、ニュース映像に加工して、テレビ局や新聞社に勤めるOB/OGに映像データを売り込んだ。ダンジョンの中からは出てこなかったモンスターが地上に出てきたということ自体が社会問題だった。200匹近いモンスターを学生が撃退したというのも、もう一つの注目点となった。


 もう一つのグループは、宗旨は異なれど、漫画好きで、アニメ好きで、特撮好きで、映画好きの集団であった。目の前で広げられた特撮戦隊もののような戦いに感動して、格好の素材を手にして、じっとしていられなかった。彼らは、コンテンツ同好会連合の総力を注いで、戦隊ものの特撮作品を作り上げたのである。

 その動画は動画投稿サイトにアップロードされた。『学園戦隊ドウジンジャー 学園祭を守れの巻』なんて題名をつけて公開された動画だが、ダンジョン内で撮影したものの合成やCGと思われたようだ。ネットでの評価は高く、次回はいつですかなんて問い合わせも多かった。


『学園戦隊ドウジンジャー。ダンジョンの出現によって我々の生活はモンスターの襲撃に怯えるようになった。学園生活を守るために学生により組織されたドウジンジャーは、表では同人誌の作成に勤しみながら、裏では日夜学生生活を守るのであった。』


 そんなナレーションから始まる23分の動画を一夜でよくもでっち上げたものである。メインの15分の戦闘シーンは俺達の戦闘を編集したものだった。それ以外の導入部は、文化祭の準備状況の記録映像と文化祭当日の記録映像を編集して、セリフだけ入れ替えたものだった。生徒会長の塚田洋二先輩がドウジンジャーの司令官に扮していたのには笑った。


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