第23話 コンテンツ同好会連合

 2023年9月4日月曜日、文芸同好会、漫画同好会、アニメ同好会、映画同好会の4つの同好会からなるコンテンツ同好会連合による文化祭に向けた決起大会があった。俺たちの両親が学生だった頃にはコンテンツ研究部という一つの部だったようなのだが、メディアの違いや運営方針の違いで派閥ごとに分裂してしまって現在に至っている。ただ文化祭で展示をするとなると、人手が足りないので合同で行っている。

 我らの文芸同好会は、オリジナルの小説のほか、アニメや漫画の二次創作や既存作品の評論もやっている。同様に、漫画同好会もオリジナルの漫画を描くことがメインだが、ラノベやアニメや漫画の二次創作や既存作品の評論もやっている。アニメ同好会もオリジナルの短編アニメを作ることがメインだが、ラノベやアニメや漫画の二次創作や既存作品の評論を行っている。映画同好会はオリジナルのミニ映画を撮影している他、映画の原作の評論を行っている。要するに、対象が違うだけで似た者同士なのである。討論会の議事録をまとめるなど紙媒体の同人誌にまとめるのが主に文芸同好会が幹事で、同じ同人誌でも二次創作系はアニメ同好会が幹事で、両社にまたがっているのが漫画同好会という立ち位置である。動画関係はアニメ同好会と映画同好会が共同で行っている。もっとも、映画同好会は文化祭当日は、演劇部の劇の撮影と文化祭のニュース記録映像の撮影があるので、制作した作品をアニメ同好会に公開を委託する形になっている。


 文芸同好会の2年、河合潔が演壇に立った。

「定例討論会の議事録である『創作研究の森第50号』は校正が75%の進捗です。文芸同好会のオリジナル作品集である『飯縄文芸の森第60号』は3年生分の校正が完了して、1-2年生分が80%の進捗です。漫画同好会からの挿絵の納品が今週中にあれば、来週には人員をヘルプに回すことが可能です。」

 続いて同じく文芸同好会の2年、川村一郎演壇に立った。

「二次創作の方ですが、漫画同好会の渡辺君の進捗に遅れが出ているので代理で川村の方で進行しています。ファンタジー系『飯縄幻想の森第33号』ですが、文芸部分が校正に入りましたが、漫画部分が今月末までかかる見込みです。SF系『銀河の森第50号』ですが、文芸部分が校正に入りましたが、漫画部分があと2週間かかる見込みです。最後にラブコメ系『学園の恋第40号』ですが、文芸部分が来週校正には入れる予定で、漫画部分が今月末までかかる見込みです。」

 アニメ同好会の1年、佐藤文也が演壇に立った。

「動画の方ですが、演劇部との合同作業で忙しいので代理で佐藤が発表します。オリジナルアニメの方は、今週、音入れと最終編集をして完成予定です。実写短編については既に動画投稿サイトにアップロードしているものも多く、DVD収録に向けた編集作業が進んでいます。来週で作業を終えて、関係者は演劇部のヘルプに入る予定です。」

 その後、誰の作業が遅れているとか、誰をヘルプに入れるとか、追加の資料が欲しいなどと細かい話が続いた。先輩方によると、イラストと漫画関係で遅延が出るのは、いつものことらしい。一番作業が早い映像関係は、所要時間の関係もあって夏休み中にほとんど仕上げてしまうそうだ。次が文芸関連で、こちらも夏休み中に創作作業を終えてしまっている。漫画とアニメ関係の作業が遅いのは、趣味の方の作業に力を入れ過ぎて、文化祭用の作品になかなか時間が取れず、締め切り間近になって慌てているというのが実態のようである。文芸同好会だって、インターネット上で行われる各種コンクールにエントリーしているのにどこが違うのだと思うことはある。一方で、こだわればいくら時間があっても足りなくなるのもわかるのだ。

 今日の進行役のアニメ同好会2年の角川修が総括した。

「漫画や挿絵の関係に遅れが目立ってきています。各リーダーを中心に空いている人を投入して締め切りに間に合わせましょう。他に何かありますか?」

 俺が最後に割り込みを入れた。

「生徒会からの依頼で、市立飯縄高校の創立100周年記念誌に、エンターテイメント分野でのOB/OGの業績を掲載したいそうです。俺の方で原稿を書いておきましたので、記述に欠落や誤りがないかどうか確認願えますでしょうか?」

「それ、生徒会というより学校からの依頼だろう?チェックだけでいいなら、俺の方でやっておく。」

「角川先輩ありがとうございます。原稿をメールしておきますので、終わったら返送してください。」

「わかった。今日中に送ってくれれば今週中にやっておく。」


 会合が終わると、文芸同好会の1年の残りの二人である高橋留美と戸塚洋子が俺と緑の所にやってきた。この二人の担当作業を俺たちが引き継いで、その代わりに漫画同好会の工藤弘六と倉田純一の作業のヘルプに入ることになっていた。

「相場さんたちに残りの仕事を押し付けてしまって、ごめんなさいね。」と高橋が謝ってきた。

「もう、ほぼ最終原稿で、校正の反映漏れがないかどうかのチェックだけだから、俺と緑でやっておく。」

「それよりも、工藤君と倉田君に、こっちの挿絵の仕上げを先にやるように、言っておいてね。」

「会合前に俺が聞いた話だと、ラフの下書き段階でのチェックで先輩たちのOKが出ているから、もうすぐでしょう?」

「緑、そう言うけれど、工藤君も倉田君も自分の原稿で遅れが出ているからね。」と戸塚が申し訳なさそうに言う。

「だから俺たちで高橋さんと戸塚さんの作業を引き受けたのでしょう。高橋さんが工藤君のヘルプで、戸塚さんが倉田君のヘルプだっけ?」

「留美も洋子も彼氏との共同作業で楽しいって言っていたでしょう?」

「弘六にダメ出ししたら、書き直すなんて言い出して、やり直しになってね。」

「純一のパソコンで仕上げしていたらストレージが故障してデータが消えちゃってね。」

「「ふぅ」」

「緑、相田君と仲良さそうだけれど、夏休みに何かあったの?」

「留美、大変だったの。バレー部の祥子たちとカラオケに行ったらダンジョンに捕獲されて、直人と一緒に第2層の池にドボン。その後第1層でアルバイトしていたのだけれど、私が拾って着た宝箱で直人とともに第3層にご招待。我ながら、よく生きて帰れたものね。直人のおかげで命拾いしたし、私のためによく働いてくれて助かるわね。」

「相場君、このまま一生緑の尻に敷かれていそうね。」

「戸塚さん、両家の両親公認の婚約関係というか内縁の夫婦になったので、手遅れですよ。」

「直人、プロポーズの言葉を忘れていないでしょうね?」

「嫌だなあ。緑さん、言葉の綾ですよ。」

「おめでとうで、いいのかな? 仲が宜しいことで。じゃあ、任せたわよ。」


 こうして、10月6日と7日の文化祭に向けた追い込みが始まったのである。


 角川先輩は仕事が速い人で、翌日にはチェック結果の返信が来た。一晩で頑張ってチェックしてくれたらしい。アニメで通常とは別のペンネームで参加している作品が抜けているとか、俳優で別の芸名で声優参加しているとか、実写映画のクレジットされないエキストラで参加しているなど、細かなチェックがされていた。最初の原稿は、俺が夏休みに一次資料を探して確認しながら書いたのだが、マイナーな別名で書かれていたものを拾い損ねていたようだ。角川先輩は趣味でインターネット上のWiki投稿サイトに投稿していて、OB/OGの関連資料を編集していたそうである。自分の記事に何件か記事に抜けや誤りがあることが確認できて助かったとのコメントが付いていた。

 偉大な先輩方に名を連ねる創作者が、一緒に文化祭に取り組んだ仲間の中から出たらいいなと思うのだった。


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